「民主化運動」という美名のもと、このような一般国民の不平不満は、しばしば暴力的に発露されてきました。さすがに今日では、光州事件のように軍と市民が銃撃戦を繰り広げるような事態は起きにくいでしょう。しかし、上記のような韓国社会の格差を是正しない限り、国民の怒りは形を変えてまた爆発するに違いありません。

財閥改革を掲げてはいるが

文在寅は財閥改革、雇用対策、福祉等の社会保障改革、中小企業支援などを大統領選の公約に掲げ、当選しました。財閥改革などは、文在寅の師匠である盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領も公約の柱にしていましたが、経済への影響が甚大で、結局は手をつけることさえできませんでした。

「光州民主化運動の延長線に立つ」と大見得を切った文在寅大統領ですが、「延長線」に立った末に国民の「怒りの爆発」に吹き飛ばされないよう、注意しなければならないでしょう。

(*注1)文京洙『韓国現代史』(岩波新書) 2005年。犠牲者数についてはその他諸説あり、2003年に韓国政府が発表した調査結果によると、死者207人、負傷者2392人、その他の被害者が987人。2005年「5・18遺族会」などの発表した調査結果によると、けがや後遺症による死亡もふくめ死者は606人。
(*注2)聯合ニュース 2016年9月4日「急激に格差広がる韓国 上位10%への所得集中は米に次ぎ2位」

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。
(写真=FRANCOIS LOCHON/GAMMA/アフロ)
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