自分のほうが“上”だと誇示したい欲望

まず、トランプ氏が、「便所のような国」発言をはじめとして他人を侮辱するようなことを平気で言うのは、1)他人の反応に気づかないうえ、6)他人の気持ちを傷つけることに鈍感だからだろう。いずれも、想像力と共感の欠如に由来する。だから、相手が抗議しようが、うんざりしようが、お構いなしに暴言を吐くし、自画自賛する。

これは、5)“送信器”はあるが、“受信器”がないことにもよる。ツイッターで過激な発言を繰り返すトランプ氏は“送信器”の塊のように見えるが、自分がいかに優秀で、どれだけすごい実績があるかを認めてほしいという承認欲求が強いせいだろう。だから、自分の発言を相手がどのように受け止めるかを考えてみようともしない。

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この強い承認欲求は、前任者の功績をすべて否定する「ちゃぶ台返し」の形でも表れる。オバマケア廃止、TPPとパリ協定からの離脱、イラン核合意破棄などを決断した一因に、オバマ大統領の功績を否定し、自分のほうが“上”だと誇示したい欲望があることは否定しがたい。

当然、敵意や反感を買う。だが、それを敏感にキャッチする“受信器”がない。あるいは、“受信器”は一応あるのだが、その感度が非常に低い。だから、しばしば「どうでもいい」と軽視して、意に介さない。

トランプ氏が、就任1年目の1月20日に全米各地で開かれた抗議デモについて、「この12カ月で実現した前例のない経済的成功と富の創出を祝うがいい」とツイートしたのも、“受信器”の感度に問題があるからではないか。

▼自分自身を過大評価すると傲慢になりやすい

2)傲慢で攻撃的なのは、強い自己愛ゆえに自分自身を過大評価しているからだろう。古代ローマの哲学者、セネカが見抜いているように、怒りは「己に対する過大評価から生じる」ので、自分自身を過大評価していると、ささいなことで怒って攻撃的になりやすい。

自分自身を過大評価していると、傲慢にもなりやすい。これは、特権意識を抱き、「自分は特別な人間だから、少々のことは許される」と思い込むせいだ。もしかしたら、世界最強の国であるアメリカの大統領になったということは、世界の王様になったも同然だから、自分を過大評価しても、特権意識を抱いても許されるとトランプ氏は思っているのかもしれない。いや、そもそも、自分自身を過大評価している自覚さえない可能性が高い。

この過大評価のせいで、3)自己陶酔にも陥りやすい。「自分はこんなにすごい」と思い込み、周囲が見えなくなるからだ。そのうえ、先ほど取り上げた“受信器”の機能不全があると、周囲の反応に全然気づかず、自己陶酔に歯止めがきかない。

とくに、4)注目の的でいたいという自己顕示欲が強いと、注目を浴びるためなら何でもするので、暴走にさらに拍車がかかる。自分の所有する建物に自分の名を冠し、大学にも自分の名前をつけ、自分のテレビ番組を持っていたトランプ氏は、この自己顕示欲でも横綱級である。