発達障害の「カツオ君」は優秀な営業マン

一方、本田氏は発達障害のプラス面も強調する。「発達障害というとよくないイメージばかりが先行していますが、本来は必ずしも悪いものといい切れないんです。たとえば多動・衝動性が強いADHDの代表的な例としては、『サザエさん』に出てくるカツオ君を思い出してください。おっちょこちょいで思いついたことはすぐに行動に移してお父さんに怒られる。でも、彼がもし営業職などに就いたら、活動的で明るくて、どこか憎めないキャラとして愛されるかもしれません。忘れ物やミスはあっても、さりげなく周囲がフォローしてくれたりして。でももし経理などに就いたら、ミスだらけで怒られる毎日が続くかもしれません」。

努力できること、できないことの差が極端なため、職業選びは大切だ。日本企業が新卒者に求める一番のスキルは「コミュニケーション能力」との調査結果(図)もあり、これは発達障害のASD(自閉スペクトラム症)には苦手分野といえる。

「実はかくいう僕もADHDとASDの特性があります。予定を立てるのも苦手だし、夢中になると寝食を忘れてのめりこんでしまう。職業を間違っていたら、確実にダメだったでしょうね。でも医者や研究者のほとんどはASDタイプです。こだわりの強さが強みにつながった例です」(本田氏)

なぜ日本は「発達障害大国」なのか

「発達障害を考えるとき、思い出してもらいたいのは童話の『みにくいアヒルの子』です。白鳥なのにアヒルの群れに入ってしまった、それが発達障害の人が置かれた状況。どんなに頑張っても白鳥はアヒルにはなれません。『努力してアヒルになれ』と叱咤激励しても、アヒルのようには鳴けず、結局、白鳥の子は白鳥にしか育ちません。白鳥には白鳥だけができることがあるはずで、その得意な分野を活かしていけばいいんです。僕は一当事者としても、声を大にしてこういいたい。『発達障害ライフを楽しもう』と」(本田氏)

アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトのビル・ゲイツなど、実際に、その特性を強みにしてビジネスに発展させた人物には枚挙にいとまがない。楽天の三木谷浩史氏も自らADHDの傾向を持つと語っている。ジョン・F・ケネディ米元大統領、坂本龍馬やエジソン、アインシュタインなども発達障害の傾向を指摘されている。発達障害=天才であるわけではないが、その特性を活かさなければ彼らの成功はなかったはずだ。

実は日本は発達障害大国でもある。本来なら人種で差が出るものではないが、なぜか国ごとに統計を取ると常にトップレベルで数が多いという。

「文化の差があるかもしれません。同じADHDやASDでも、ほかの国では許容されるレベルが、日本では問題視されてしまう。日本は国家レベルで空気を読むことを国民に求める風潮があり、人々は互いに完璧を求めすぎているように思います」(同)

いつの時代も一定数、発達障害は存在した。かつてなら社会に溶け込み、あるいは「変人だけど面白い」と受け入れられてきた特質が許容されない社会になってきたことが、昨今の「発達障害」の知名度の上昇に一役買っているのかもしれない。

利益を追求する企業で、個人のケアをどこまですべきかという問題はあるが、個人の努力と同時に、社会の側も知識を持つことでトラブルを減らし、新たな成果に結びつく可能性があるのではないだろうか。

五十嵐良雄(いがらし・よしお)
1976年、北海道大医学部卒。ミラノ大(イタリア)やユトレヒト大(オランダ)に留学した。医療法人全和会秩父中央病院長などを経て2003年に職場の「うつ」などが専門のメディカルケア虎ノ門を開設。
 

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
1988年、東京大学医学部卒。山梨県立こころの発達総合支援センター所長を経て2014年信州大医学部附属病院子どものこころ診療部診療教授に。乳幼児から成人まで幅広い世代の発達障害の診療経験が豊富。