ライフイベントのある女性にとって、管理職への挑戦には不安や困難もある。どうやってその壁を乗り越えていくのか。総合モーターメーカー、日本電産で活躍する管理職とその候補世代、立場の異なる2人の女性社員が話し合った。
(左)柏 尚子さん(Naoko Kashiwa)
精密小型モータ事業本部
新商品開発センター 開発統轄部
開発研究部 第1グループ 課長代理

(右)上住亜紀さん(Aki Uwazumi)
グローバル税務企画部長

時間勝負ではなく一歩先を考えた仕事を

──日本電産では社会的な働き方改革と女性活躍支援に着手しています。現場ではどのように取り組んでいますか。

【上住】私は管理職として、例えば子育て中のメンバーには時間的な制約のある中でも、効率よく仕事をこなしさまざまな経験を積んでもらうように気をつけています。柏さんは娘さん2人を育てながら仕事でも成果を出していますが、どんな工夫をされていますか?

【柏】小さなことでも、できるだけ自分で判断をして仕事を進めるように心がけています。そうしようと思ったきっかけは、2人目の出産後の復帰面談で上司から「時間で勝負しないでください」と言っていただいたこと。データ分析など時間を要する業務で成果を出そうとすれば、以前の自分に負けてしまいます。限られた時間の中でも、自分の経験やスキルを生かして付加価値を生み出せるよう、後輩指導や上司に積極的に提案していけばいい。経験を重ねた今の自分だからできる仕事を心がけています。

【上住】自ら考えて、行動につなげていくというトレーニングは、そのままご自身のレベルを引き上げていると思います。特に女性は出産というライフイベントがあるので若いうちからさまざまな経験を積んで、仕事の達成感や成功体験を味わってもらうことが、その後のキャリアの素地となるはず。柏さんは理想的な成長スタイルです。

【柏】本当にこのやり方でいいのか、試行錯誤の日々です。慣れ親しんだ業務の範囲を超えて、より大きな局面で決断をしなければならないとしたら自分は責任を持てるのか、正直なところ不安です。

【上住】気持ちはよくわかります。私もキャリアアップの節目では迷いもありました。自分の決断で会社に取り返しのつかないことにならないか……そんなためらいはきっと誰でも同じ。最初から自信を持って決められる人はいないんです。物事に判断を下していく力は、経験を通じてしか身につきません。だからこそ日々の仕事で判断のレベルを上げ、経験値を高めていくことにより、自信をつけることが重要なんです。

仕事とプライベートを意識して切り替える

【柏】もしも私らしく管理職の役割を担えるとしたら、各自が自らの頭で考え、効率的に行動していけるようブレない目標を示していきたいです。ただ育児と両立しながら管理職になれば働き方がどう変わるのか、イメージできない部分もあります。

【上住】プライベートと仕事とのバランスの取り方は私にとっても難しいテーマです。でも、仕事が頭から離れないのでは逆にいい結果は残せません。数時間でもいいので仕事のことを考えない時間をつくるようにワークライフマネジメントを意識しています。

【柏】その点、子育てをしている時間は自然に思考が切り替えられます。食事の支度中に子どもたちが2人同時に喋ってきたりは日常茶飯事。もちろん大変ではあるけれど、仕事を忘れるリフレッシュの時間にもなっています。

【上住】それも素敵ですね。管理職は完璧ではありません。決断を下すのに悩むこともあれば、困難を乗り越えていかなければならない場面も多々ありますが、大変なときは上司や同僚、部下が助けてくれます。また何よりも大事なのは、絶対に諦めずにできると信じて前進する努力を重ねていくことだと思います。このような経験を通じて、より大きな視野から物事を見渡すことができるようになり、そこから見える景色、そして感じる面白さがあります。声がかかればぜひ管理職に挑戦してほしいと思います。日本電産はそのチャンスがある会社ですから。

経営の目線でグローバル税務を動かしていく

上住さんが“管理職”になって見えた景色

グローバル税務企画部の部門長として、グローバルでの税務リスクの低減と税務コストの最適化を果たしていくのが主なミッションです。世界経済の動きを反映する非常にダイナミックな仕事であり、そこに企業の中から関われる面白さを日々実感しています。そもそも私が外資系会計事務所から転職したのは、企業税務に当事者として関わっていきたいという思いがあったから。その一端を担うだけでなく、管理職としてより大きな決断をすることで、経営の方針を理解し、税務戦略に落とし込む過程で、新たな税務の面白さを感じることでキャリアが広がったと実感しています。

また、男女の区別がなく非常にフラットな会社だったのも幸運でした。外資系からの転職でも違和感なく馴染むことができたのは、風通しのよい会社の文化のおかげ。現在は世界5地域に税務のヘッドクオーターを置く新体制を構築しています。グローバルでの税務管理体制をいかに構築させていくか──生みの苦しみはありますが、それを乗り越えて期待に応えていきます。

時間が限られているからこそ効率を意識する

柏さんが“育児と仕事の両立”で見えた景色

入社以来、HDDのモータに使うオイルや接着剤といった材料の研究開発に従事しています。出産前、身近に短時間勤務制度を利用した先輩がいたおかげで、産後の復職に迷うことはありませんでした。仕事と子育ての両立ができるという自信はなかったけれど、やってみようと思える環境がありました。ただ、やはり仕事への向き合い方は復帰前と変わりました。勤務時間は短く、不意に休まざるをえない日もあります。だからこそ意識しているのは、部門長や上司とのコミュニケーション。「どんな製品」を「どう作るか」という認識にずれがないかをこまめに確認し、後輩に情報共有して、各自がもっとも効率的に動けるように心がけています。

たまたま私は女性で出産を経験していますが、これからは男性も働き方を見つめ直す時代です。大切なのは男女を超えて一人ひとりが強みや個性を生かし、ベストを尽くせるかどうか。その結果、会社やクライアントに貢献していくことが一番のやりがいになっています。

日本電産の女性活躍は第二フェーズへ

仕事とプライベートをどう両立させるかは、男女を問わないテーマ。日本電産では全社的な働き方改革と女性活躍推進をリンクさせて取り組んでいる。2005年から仕事とプライベートの両立支援の施策を展開していたが、15年度からは活躍支援のフェーズに突入。16年度は有志のプロジェクトチームを発足させ、男女問わず活躍するための施策を経営トップに提言した。これを着実に実行するため、17年度には「3つの制度(在宅勤務・時差勤務・時間単位年休)」「育児休業復職支援プログラム」の導入、「育児・介護ガイドブック」の策定、女性社員のキャリア教育支援の構築を進めている。過去最高益を更新しながらも残業時間は働き方改革前と比較して約半減。女性活躍推進法に基づく「えるぼし(2つ星)」の認定も取得した。

Edit=Embody Photograph=熊谷武二