追従者を育成する勇気を持てるか

ここまで述べてきたのは、創業者や経営トップのカリスマ性に大きく依存するタイプのブランドであり、ニッチな市場や関与性(こだわり)の高い商品分野においては成立しやすい。当然ながら、高価格帯やハイエンド製品が売れていく基盤も出来上がる。

カリスマ経営者というと、SNSで多大なフォロワーを有する、マスメディアからの取材も多い、社内ではその存在感が突出している、といった様相を呈する。こうしたリーダーが心身共に元気なうちは問題がなかろう。しかし近年でも、セブン&アイ、スズキ、吉野家など、カリスマ経営者退任後の経営不安がささやかれた例は絶えることがない。崇拝型は、カリスマが引退や死去により、第一線を退いた時点で顧客が逃げていくというリスクと隣り合わせにあることも肝に銘じたい。

そこで考えておくべきなのは、「追随する者を育てる」勇気である。世界初の明太子製造に成功した、「ふくや」(福岡市)は、あえて製造特許や商標を取得せず、安くて美味しいものがたくさん世の中に出回るようにと、仕入れ業者に製造技術を伝授した。1716年創業の老舗「中川政七商店」(奈良市)では、自ら工芸品のブランドを開発・販売するだけでなく、伝統工芸品メーカーのコンサルティングを利益度外視で行っている。

なぜ二郎は「インスパイア店」を許容するのか

ラーメン二郎においては、支店、本店修行を経たのれん分け制度もあるが、インスパイア店、リスペクト店と呼ばれる類似店舗への許容姿勢が特徴である。結果的にそれらが、二郎ファンの間口を広げることにつながっている。

追随者をライバルとみなして蹴落とすのではなく、同志として受け入れたり、弟子として育てていったりすることで、自らを核とする一つの市場領域が形成される。一緒に一つの業界をつくるという意識だ。これにより、本家本元のブランドとしての価値がより高まっていくのはいうまでもない。また本家としても、後進として追い上げる者たちとの間で繰り広げられる切磋琢磨によって、さらなる高みを目指していく熱い気持ちが維持されるかもしれない。先駆者であり破壊者である一面、育成者としても振る舞うことで、崇拝型のビジネスはより強固な存在になっていく。

新井 範子(あらい・のりこ)
上智大学経済学部経営学科教授。インターネットやアプリを使ったデジタルなマーケティング、デジタル空間での消費者行動やブランディッド・エンターテインメントを中心に研究をしている。
山川 悟(やまかわ・さとる)
東京富士大学経営学部教授。広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わった。専門はマーケティング論、創造性開発(プランニング、事業モデル開発)、コンテンツビジネス論。
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