中川政七商店の執行役員バイヤー、細萱(ほそがや)久美さんは多忙な中川社長とはなかなか顔を合わせられないことも多い。そこで役に立っているのが、社長の著書だと語っていた。

「モノづくりやブランディングのいい教科書になっています。社長自身も講演等で使っていますし、それに沿って考えたりすることも多い」

そして日々の社長の空気感にも敏感になっていくことが大切になる。カルビーの笙さんは提案のタイミングに注意をしていた。

「経営者本人の中に、今どこに興味が向いているか、という流れがなんとなくあるんですよ。お、フルグラにいっているな、というときもあれば、あっ今、中国に来た、というときもある。ここは、うまくつかまないといけない」

ストライプインターナショナルの中村さんは、同僚とうまく連携しながら、目指すべきところに着地させている。

「人間同士、波長が合うときと合わないときがあると思うんです。この人となんだかものすごく考えることが似ているなと思うときと、そうでないときと。たとえば私自身にも、企画がするりと通るな、という時期と、全然ダメな時期があって。合う人が提案にいくとうまくいくんです」

経営者の変化に対応する

しかし、社長をわかった気になってはいけない、というのも優れた「社長のまわり」の声だった。ストライプインターナショナルの文化企画部部長の岡田泰治さんは気を付けなければならないことがある、と語っていた。

「クセや好みをわかったような気になることです。しかし、石川は常に変化していますから、どんどん変わっていくんですよね。1週間前の時点ではこう思っている、ということが、1週間後には変わっていることがある」

それなのに「社長はこうだ」と思い込んでしまうと、本質からぶれていってしまう。だから常に確認をするのだ。

サニーサイドアップの社長室副室長の谷村江美さんは、次原社長に声をかける際にも注意している。

「確認は重要ですが、気配りは十分にしないといけないと思っています。次原が別のことで集中しているときに、横から直接、別件のことを聞いたりすることはまずしないですね」

優れた経営トップほど、アクティブに動き、考え、決断している。どんどん変化し、言うことも変わっていく。むちゃぶり、思いつきは当たり前。そんな中で、振り回されずに、いかに信頼を得ていくか。優れた「社長のまわり」に、学べることは多い。

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
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