何が勝ち組と負け組を分けるのか。雑誌「プレジデント」(2017年3月6日号)の特集「『働き方』全課題60」では、「超一流の仕事術 全解明」として、より成果を上げるためのノウハウを各方面のエキスパートに取材。今回は、エグゼクティブコーチの桜井一紀氏が「部下を育てる」について解説する――。

なぜ部下に「親切に教える」上司は三流か

私は「コーチング」の専門家として、企業の幹部や役員のコーチを務めています。コーチといえば、スポーツで技術指導をする人をイメージするかもしれません。ゴルフではクラブの振り方を指導する人を「ティーチングプロ」と呼びますが、ティーチングとコーチングは決定的に違います。そして部下を育てるうえでは、コーチングの考え方が参考になります。

ティーチングでは端的に答えを伝えます。経験者が初心者に対して、より効率的な方法を教えるわけです。一方、コーチングでは答えは示しません。コーチの役割は、相手に質問を投げかけ、考えさせ、話を聞くこと。一緒に考えることで相手の行動変容をサポートします。

ティーチングとコーチングのどちらが部下を成長させるのか。部下と一緒に考えることを優先する「質問型リーダー」と、部下にやり方を教えることを優先する「アドバイス型リーダー」で比較した調査結果があります。それによると、ビジョン構築や目標設定、積極的な提案などの項目で、アドバイス型より質問型の部下や同僚のほうが、積極的な姿勢がみられました。

ティーチングやアドバイスが有効に働く場面もあります。端的に答えを伝えたほうが、短期的にはスピードは速くなります。しかし、答えを自分のものにしていないため、部下の「指示待ち」をつくってしまい、長期的にはイノベーションや効率化を妨げます。