無意味な日付は発想の純度を落とす

何よりもスピード重視。筆記具にもこだわらない。どれだけ悪筆でも記憶をたどれば問題はない。

何よりもスピード重視。筆記具にもこだわらない。どれだけ悪筆でも記憶をたどれば問題はない。

なぜ、メモは日付とバインドされていてはいけないのか?  アイデアが日付に縛りつけられるからである。

たとえば、カレンダーとメモ欄がバインドされている手帳の、8月31日の週のメモ欄に、あるアイデアを書き込んだとしよう。そのアイデアを、翌週、つまり9月7日の週に見る。すると、そのアイデアは先週思いついたアイデア、つまり“古いアイデア”に見えてしまうのだ。アイデアの中身はまったく変わっていないのに、日付とバインドされているがゆえに序列がついてしまう。

過去のアイデアを手帳に記録しておくのもよくない。先週のアイデアをリファインして、今週新しいアイデアにたどり着いたとする。このとき、過去のアイデアが手帳に残っていると、「先週はこう考えていたのに……」と、思考が過去に引きずられてしまう。

日付とバインドされることで、アイデアは不要な序列をつけられ、不要な束縛を受けてしまい、純度が落ちてしまう。

私はA4の紙に書き留めたアイデアを、そのままの形で保存しておく。新しいアイデアが浮かんだら、古いアイデアは紙ごと捨てて、きれいに忘れてしまう。そうすることで、常にアイデアの鮮度を保つようにしているのである。

手帳を持ち歩かないと、大切なことを忘れてしまうという人もいるだろう。私は社外の人と会食をして有意義な話を聞いたときなどは、論点の数を指に記憶させるようにしている。

論点が3つあったら、テーブルの下で指を3本折る。そして、指を3本折ったことだけを記憶しておく。話の内容は忘れてしまっても、論点がいくつあったかを記憶しておけば、後になって復元が可能だからだ。オフィスに戻ってから、親指、人差し指、中指、というように順を追って思い出していけば、容易に内容を復元できる。

怖いのは、「忘れてはいけないことがある、ということ自体を忘れてしまうこと」である。記憶を回復させるキッカケさえ仕込んでおけば、この不安を回避できる。そういう意味で、私の究極の手帳は指、ということになるかもしれない。

(山田清機=構成 坂本政十賜=撮影)