【原】なるほど。確かに私もトヨタ時代はツナギを着て整備士をやっていたわけですが、そこから飛び出して異業種に挑戦する時は僭越ながら同じことを考えました。でもいざ飛び出してみると、業種は変わっても根底にある原理原則は変わらないのかな、と感じました。

【玉塚】そうですね。会社の経営というのも客観的に突き詰めれば「どうやってお客様に喜んでもらうのか」ということを考える仕事ですから、コンビニであろうがITであろうが原理原則は一緒だと思っています。そこで「業種が違うから」と二の足を踏んだり頭を固く考えたりするのではなく、過去の体験に縛られず柔軟性を持つことが大事ではないかと思いますね。

現場の感度と経営の感度を研ぎ澄ます「三現主義」

【原】それと、トヨタでは「三現主義」が徹底されています。「現地・現物・現実」の3つですね。現地に行って、現物を見て、現実を知りなさい、と。私は現場にいる人間でしたが、常に上層部の方たちが足を運んできて現場を知ろうとしていたのをよく覚えています。他社さんではあまりそういった動きはないようなんですが。

【玉塚】現場は確かに大事ですね。経営者に重要な3つのポイントとして、「感度」と「実行力」と「巻き込み力」があるかなと思っています。感度というのは「現場の感度」と「経営の感度」の2つあって、いわば「ミクロの感度」と「マクロの感度」ですね。現場の感度を高めるために、私もローソン時代は店舗に足を運んで加盟店のオーナーさんといつも話をしていましたし、今のハーツユナイテッドグループでも、現場である拠点に足を運んではエンジニアにいつも話を聞いています。

【原】現場に行ってどんな話をされますか?

『Action! トヨタの現場の「やりきる力」』著者の原マサヒコ・プラスドライブ代表取締役

【玉塚】それはもう色んな話をしますね。このやり方で良いのか、もっと打ち手を変えた方がいいんじゃないのか、今の倍の生産性を実現できないのか、他の業界でベンチマーク企業があるんじゃないか、などなど現場でのアンテナを研ぎ澄ますわけです。

【原】なるほど。それでも、現場の改善・改良だけでは足りないということですよね。

【玉塚】そうです。それだけではイノベーションは起きない。マクロでものすごく俯瞰して自社の製品を見るのと、現場のアンテナを研ぎ澄ますことの掛け算が重要です。マクロとミクロを行ったり来たりしながら、仮説が生まれたら即座に実行していく。ここで2つ目の「実行力」です。実行してナンボですからね。

【原】3つ目の「巻き込み力」は?

【玉塚】感度と実行力に加えて最近重要性を感じるのがこの「巻き込み力」ですね。経営者は台風の目としてビジョンを示してあげることが非常に大事。今の時代、1社だけで問題解決できることは難しくなってきているので、いかに他社を含めた周囲を巻き込んでいくか。そんな力が必要になってきていますね。

【原】現場は当然大事だけれども、その現場で感じたことでいかに仮説を立てられるか、いかに実行できるか、いかに周囲を巻きこめるか、ということですね。

【玉塚】ええ。そうやって高頻度でPDCAを回していきながら企業を成長させていくことが近年は特に重要になってきていますね。