「AIでは圧倒的にアメリカに負けていても、日本はメカトロニクスには強い。ロボット産業が最後の砦になるでしょう。AIはアメリカに任せ、それを搭載した動く精密機械を製造することで日本は生きていくということになる」(鈴木氏)

「AIがロボットを造るというのはかなり先の話で、当面は人間がロボットを造る。そして複雑になればなるほど、システムとして成立させるには、すり合わせが必要になります。つまり〈情報の取得、情報の処理、運動〉の3要素をバランスよくすり合わせるというのは難度が高く、これを高次元でしかも大量生産できる国は多くありません」(林氏)

では、日本の製造するロボットが人間の仕事を奪い、仕事が一気に消滅するかというと、実はそういうわけでもない。ロボットは高度な機械部品の組み合わせだから、製造には相応の時間がかかる。性能がアップし、需要があっても物理的に生産できる台数がボトルネックになるのだ。

少子高齢化に伴う人口減少は避けられない。労働力確保のために移民をという声も聞かれるが、安易に移民を受け入れた後に大量失業時代がやってくれば、移民排斥運動が起きるのは想像に難くない。人口減少をむしろ好機として、ロボットで人手不足解消を図る方向にアクセルを踏んでいくべきなのだろう。

とはいえ、疑問はまだ残る。AIやロボットが働いて、いろんな製品を作り、交通機関を運行し、サービスを供給する。人が働かなくなるだけで、ほかは変わらない世界はユートピアなのかディストピアなのか?

「AIが仕事を奪う、ロボットが搾取すると思いがちですが、そうではなくて、賢くてお金を持っている人が、より稼ぐためにAIを使うという構造が恐ろしいわけです」(林氏)

今のまま市場原理に任せておけば、国民の1%が富裕層、49%が中流層で、残りの50%は仕事がなく生活保護に頼って生きる貧困層という社会になると言われている。それでも、富裕層が高額なプライベートジェットに高級タワーマンションを買い漁れば、GDPは変わらず、統計上は「経済は順調」ということになる。

「通過点としてはありうる話でしょう。流動性を放置すれば、資本主義は格差が加速度的に拡大します。でも、1%の人が大半の富を所有するという構図が人類全体の生産性をマックスにするかというと、そんなことはないはず。もっといい富の傾斜配分をつくったほうが、全体の生産性は上がるはずです」(林氏)

「大勢が失業したとしても、経済は変わらずに回る。そのときに富さえ配分されていれば、家も、生活に必要なものも手に入る。問題はいかに富を再配分するかです」(鈴木氏)

つまり、仕事がなくなること自体が恐ろしいというよりも、失業しても大丈夫な社会の仕組みづくりを構築できるかどうかが問題で、それが全く見えないから不安なのだ。