2万4000人入る音楽堂で年に1回、野外コンサート

【大前】野外の演奏会も見たことがあります。

【樫本】ベルリンに2万4000人くらい入るヴァルトビューネ野外音楽堂というのがあって、年に1回、6月下旬に野外コンサートをやっています。

【大前】夕暮れぐらいからやるでしょう。きれいですよね。

【樫本】絵としては最高です。

【大前】よく聴こえますよね。

【樫本】あれはでも、マイクを通してますから。

【大前】AV(音響機材)を使ってるんですね。

【樫本】「ピクニックコンサート」と言われているくらいで、本当に皆ピクニック感覚で、ワインとか食べ物を持ち込んで、飲みながら、食べながら、聴いている感じです。

【大前】私がMITにいた頃はボストン・ポップス(オーケストラ)がチャールズ川のほとりで野外コンサートをやってました。水際だから蚊がすごくてね(笑)。

【樫本】でも、時にはそういう雰囲気もいいですよね。

【大前】あとボストンの場合、タングルウッド(米マサチューセッツ州バークシャー郡レノックスで毎年夏に開催される世界的な音楽祭)がありますから。

私はボストンに3年いたので3回行きましたけど、最後の音楽祭のときにウッドストックというところでベトナム戦争反対のロックフェスティバルがあってヒッピーが20万人以上集まった。

タングルウッドとウッドストックは隣町だから、ハイウェーもヒッチハイカーで溢れてましたよ。ああいうのは日本ではあまりない。

毎年、赤穂と姫路で行われるル・ポン国際音楽祭

【樫本】日本では屋外で演奏するチャンスはあまりないですよね。僕は毎年、兵庫県の赤穂と姫路で野外コンサートも行う音楽祭(ル・ポン国際音楽祭 樫本氏が音楽監督を務める)をやっているんですが、天候とか、やっぱり大変なんです。

【大前】何でそこなんですか?

【樫本】母の出身地が赤穂なんです。僕も子供の頃、遊びに行っていました。故郷みたいなものですね。

【大前】コンサートは年1回?

【樫本】赤穂で開始し、初めは毎年は予算が取れないということで、「2年に1回」というお話だったのですが、姫路市長が「空いているときに姫路でも」と言ってくださり。

【大前】じゃあ赤穂と姫路で交互に?

【樫本】しばらくは交互でしたが、毎年でなければ意味がないということで、2年に1回ではなくもう一緒に毎年やっちゃおうと。

【大前】コンサートホールはどちら側にあるんですか?

【樫本】ホールでの演奏会は両市で毎年やっています。オープンエアのコンサートは、毎年各市で交互に。だいたいは会期前半は赤穂で後半は姫路に移動します。オープンエアは、赤穂では赤穂城跡、姫路では姫路城の前でやったり、山の上にあるお寺(書写山圓教寺)をバックにしたり。面白い音楽祭ですよ。

【大前】日本でクラシックの音楽フェスというと、長野の松本(セイジ・オザワ松本フェスティバル)や大分(別府アルゲリッチ音楽祭)が有名ですね。

【樫本】規模が全然違いますよ。僕らの音楽祭は参加アーティストが14人くらいで、こぢんまりやっている。松本はオーケストラもあって、オペラもやっちゃいますから。

【大前】そうすると赤穂、姫路はだいたい室内楽?

【樫本】室内楽です。シンフォニーだけではなく室内楽にも親しんでもらいたいと思って。

【大前】樫本さんの音楽祭だったら必ず集まる。これはもっと言わないとダメですよ。

【樫本】チケットは幸運なことに、いつもよく売れています。

【大前】地元の人が多い?

【樫本】半分くらいは地元の方かな。できるだけ地元の方にも来ていただきたいですが、やはり東京からも来られますね。今度、是非いらして下さい。楽しい音楽祭ですから。

自分を中心に宇宙が回っている感じ

【大前】1年の半分はベルリンで、あとは世界中を回って日本にも定期的にやって来る。くたびれないですか?

【樫本】まあ、時差ボケはありますね。

【大前】飛んじゃったりしてね。

【樫本】時々ありますね(笑)。

【大前】私らはアマチュアオケだからどうってことないけど、一度、北海道でシューベルトの8番(交響曲第8番「未完成」)をやるときに、あれはA管(吹奏楽など一般的に多く使われるクラリネットはB管。オーケストラではB管よりも半音低いA管のクラリネットも使われてA管、B管2種類用意する)なんだけど、B管を持ってステージに出ていっちゃった。

【樫本】あららら。

【大前】セカンドに「お前のよこせ」と言ったら「嫌です」と言うから、しょうが
ないから全部半音下げて。

【樫本】うわー。それって大変ですね。

【大前】ソロがすぐに出てくるでしょう。きつかったけど、あの頃はまだそれができた。この間、ベルリン・フィルで「未完成」をやっていたときに、私は半音下げて今でもできるかなと思いながら聴いてました。もう全然無理(笑)。

【樫本】ホルンも一音上げたり、すぐできますよね。管楽器の人はすごいな、と思います。僕ら弦楽器の人間は絶対無理です。

【大前】だから自分を中心に宇宙が回っている感じ(笑)。

【樫本】ヴァイオリニストの感覚ですよ、それは(笑)。