とはいえ、退職勧奨を繰り返してはいけない

退職勧奨は、原則として会社の自由であり違法なものではない。ただし退職勧奨を執拗に繰り返すなど、社員の任意の意思を尊重しないような態様で実施すると、違法との評価を受けることがある。

約3カ月にわたり、複数かつ多様な退職勧奨を実施した企業についての裁判例がある。この事案では、会社の方法が違法として約200万円の慰謝料が認められている。個人的な経験としては、退職勧奨の慰謝料としては50万円以下で妥結してきたケースが多い。

ただ、手元の資料によると400万円を超える慰謝料が認定されたものもあるようだ。退職勧奨の慰謝料は、低額なものと高額なものに二極化される傾向がある。また、退職勧奨が助成金に影響することがある。助成金の支給の条件として「退職勧奨による会社都合の退職をさせてはならない」というものもある。

もし解雇するときは、理由をハッキリさせておく

退職勧奨には応じない。問題行為もおさまらない。こういう場合には、解雇をするほかない。解雇をするときには、「不当解雇で争われる」覚悟を持っていただきたい。解雇をする場合には、解雇の理由を就業規則に照らし合わせて確認しておく必要がある。

多くの経営者は、1つのミスで解雇することはなく、これまで積み重なってきた不満が爆発して解雇してしまう。そのため、解雇の理由がハッキリしないまま解雇してしまう。これだと解雇の理由が特定されず、不当解雇になってしまう。不満が爆発するという経営者の気持ちにも同情するが、感情に流されたら負けだ。

解雇した社員からは、解雇理由通知書の発行を求められることがある。この時点ですでに相手は弁護士なりに相談していることが多い。解雇理由通知書とは、文字通り会社が解雇した理由を明示した書面のことだ。不当解雇として司法手続をとる場合には、解雇の事実を明らかにする証拠が必要だ。その証拠として利用されるわけだ。経営者は、証拠にされるとわかっていても、発行しなければならない。

社員のなかには、退職勧奨の際に自ら解雇を求めてくる者もいる。「退職しますが、失業給付が有利なので、解雇にしてください」などと言ってくる。求めに応じて、解雇で離職票を発行する経営者もいるが、これは絶対にしてはいけない。不当解雇で争われて、多額の解決金を支払う羽目になったこともあるからだ。「社員の求めで解雇にした」と主張しても相手にされない。