届いた内容証明に書かれていること

不当な解雇で争われる場合、社員側の要求は「解雇は無効だから、職場に戻して賃金を支払え」というものだ。経営者はそもそも「解雇してはいけない」と思っておらず、弁護士からの書面を目にして、慌てることになる。いったん解雇した社員が戻ってきては、「社長としての威厳にも関わる」とおっしゃる方もいる。

また、多くの経営者は「1カ月分の賃金さえ支払えば解雇ができる」と信じている。社員は、モノではない。経営者として気に入らないから解雇できるなどとなれば、あまりにも社員の立場が弱くなってしまう。そこで日本の労働法では、解雇が著しく制限されている。誤解を恐れず表現すれば、解雇が認められる場合など、実はほとんどない。

経営者は、解雇についてあまりにも無知だ。「普通解雇」と「懲戒解雇」の違いすらわからないまま、解雇しまっていることもある。解雇を言い渡す際には、弁護士に事前相談することを強く勧める。不当解雇で争われると、時間とコストがかかりすぎる。そのうえ、不当解雇が認定されると、解雇された社員が復職し、ギクシャクした人間関係になりかねない。

安易に解雇する経営者なんていないが……

さまざまな場面で「解雇は危険だから気をつけよう」とアドバイスしているが、それでも経営者は解雇してしまった後で相談にやってくる。ふたを開ければ、その多くが違法な解雇だ。弁護士として「なんで相談してくれなかったのか」と問い詰めることは容易だが、こうしたときに私は経営者を責めはしない。「わかりました。あとはこちらで対応します」と伝えるだけだ。

不当解雇という言葉は、重い言葉だ。いきなり職を失う社員にとっては、人生設計にすら影響を与える事情である。そのため、どうしても、解雇という言葉は社員の目線で語られることが多い。ここでは経営者が独善的な悪であり、解雇された社員は経営者に翻弄された弱者という設定になりがちだ。

だからといって、中小企業の経営者が安易に解雇しているわけではない。多くの経営者は、「何とか職場を盛り上げたい」という一心でがんばっている。経営者は、社員の人生を背負っている。経営者は、悩み尽くしたうえで解雇の選択をしている。決して軽い気持ちで解雇をしているわけではないことを私は知っている。解雇を通告した後の、暗く重い気持ちは経験した者にしかわからない。解雇は誰にとってもいいことではない。

クビにできない。でも、辞めてもらうしかないとき

解雇できないとなれば、経営者はどのように対応するべきか。

まず、指導によって、活躍できるようにならないかを模索する必要がある。不当解雇が訴訟で争われるときには、「指導がなされていたか」が争点になることがある。経営者としては、何度も口頭で指導したと主張するもののなかなか認められない。したがって、指導は書面で実施することが鉄則だ。書面があることで指導を受ける側としても、内容を理解がしやすいメリットもある。そのうえ指導をしたことの証拠にもなる。このような指導もなくいきなり退職を求めたり、まして、解雇をしたりしてはならない。

 指導をしても改善が見受けられない場合には、経営者から退職を勧めることになる。いわゆる「退職勧奨」というものだ。退職を勧めることは、違法なことではない。ポイントは、どのように話を持っていくかである。人間には、プライドというものがある。問題点を一方的に言われるだけでは、社員としてもプライドが傷つけられる。なぜこの会社では難しいのかを穏やかに話すことだ。

このとき、退職金の上乗せを提示することになる。社員としても、動機がなければ退職に応じることは難しい。賃金の3カ月から6カ月分を上乗せとして支払って、話をまとめるケースが多い。