ビデで膣内が中性になり、雑菌が繁殖する

ところが、現代の女性は膣炎になります。「洗えばきれいになる」とばかりに、オシッコのたびにビデで洗っているからです。そのたびにデーデルライン桿菌は洗い流され、膣は中性にかたよっていきます。そうなると、雑菌が膣内で増殖し、おりものが出てきて、膣炎となってしまうのです。

みなさんは、トリコモナス原虫を知っていますか? この原虫は、男性の体内では悪さをしない微生物です。実際、トリコモナスを尿道に飼っている男性は多いのですが、痛くもかゆくもないので、本人は感染に気づきません。しかし、そうした男性が女性の膣にトリコモナス原虫を入れてしまうと、この原虫はデーデルライン桿菌のエサであるグリコーゲンを横どりするようになります。エサを奪われたデーデルライン桿菌は数を減らし、結果、膣内は中性になり、雑菌が繁殖して炎症を起こすことになります。これをトリコモナス膣炎と呼びます。

洗いすぎで生じる膣炎は、このトリコモナス膣炎と同じ状態です。原虫はいなくても、洗いすぎてしまえば、トリコモナスを膣内で育てていることと同じ状態を生み出すのです。

早産や流産の原因は50~60パーセントが膣炎

妊娠を控えた女性にとって膣炎は、避けたい症状の一つです。

国立国際医療センター戸山病院産婦人科の荻野満春先生(研究指導者・箕浦茂樹部長)が、飯野病院の飯野孝一院長と共同で行った調査によると、「習慣的に温水洗浄便座を使用している人は、使用していない人に比べて、膣内の善玉菌である乳酸菌が著しく消失し、腸内細菌などによる汚染が目立ち、細菌性膣症にかかりやすくなっていた」と結論づけました。

この調査は、妊娠していない19~40歳の女性で、温水洗浄トイレを習慣的に使用している人(使用者)154人と、まったく使用しない、またはときどき使用している人(未使用者)114人を対象に実施されました。

彼女たちの膣内分泌物を採取・分析した結果、乳酸菌を保有していない症例は、温水洗浄トイレの未使用者ではわずか8.77パーセントでした。これに対して使用者では42.86パーセントもの人が乳酸菌を膣内に持っていなかったのです。温水洗浄トイレの使用者は、未使用者のなんと約5倍もの人が、デーデルライン桿菌を失っていたという結果です。

さらに、膣内から腸内細菌が検出された症例の92パーセントは、温水洗浄トイレの使用者であることも判明しました。本来、膣内にいるはずのない腸内細菌が、温水洗浄トイレの使用者の膣のなかに入り込んでしまっているのです。

この調査結果が示唆するのは、日常的にビデで洗う女性は、膣内のデーデルライン桿菌を洗い流したために、雑菌に対する抵抗力を低下させてしまっているということです。そのぶん、膣炎にかかるリスクは高くなります。そして、早産や流産の原因は50~60パーセントが膣炎にあるともいわれているのです。

藤田 紘一郎(ふじた・こういちろう)
医師・医学博士
1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒。東京大学大学院医学系研究科修了。金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学教授を歴任し、現在は同大学名誉教授。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日本寄生虫学会賞、講談社出版文化賞・科学出版賞、日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞など受賞多数。
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