世界に通用する貧血の専門家に

研修医2年目の春には、光文社新書から『貧血大国・日本』を上梓した。その後、貧血についてさらに勉強するうちに、世界の貧血の実態を調査したいと思い、昨年の6月には上海市にある復旦大学の趙根明先生の教室へ短期留学した。論文を読み、データを集め、英語で議論する日々は、私にとって貴重な経験となった。苦手な英語へのコンプレックスも、少しは克服できた気がする。帰国後も、共同研究を進めさせていただいている。

新書の上梓をきっかっけに、永谷園とロート製薬からコラボレーションのお話をいただいた。春や夏には「貧血セミナー」を開き、さらに貧血対策に関する商品開発の監修や、貧血の調査にも携わらせていただいている。

来年4月からは、東京大学大学院医学研究科の博士課程に進むことが決まった。世界に通用する貧血の専門家になりたいと思い、その第一歩として、東京大学で博士号を取得しようと考え、受験を決意した。高校2年生の冬に摂食障害になり、大学受験に失敗。一浪してなんとか医学部に合格した私にとって、とてもハードルの高い決断だった。大町病院に出向になってから、外来業務や病棟管理に明け暮れる毎日だったため、院試の勉強をすることは、そう容易くはなかったが、なんとか合格できた。今まで通り、南相馬の診療を続けながら、北村俊雄教授のもとで貧血についての研究に従事したいと思っている。

南相馬から東京大学までは車で片道4時間

南相馬から東京大学までは車で片道4時間ほどかかる。大学院の規定があるため、大町病院での勤務は非常勤になるが、南相馬と東京を往復する生活を計画している。

※編集部注:大学院に入るまで研究計画が確定しないため、一部表現をあらためました。(2017年1月19日追記)

このように、多くの方にチャンスをいただき、想像していなかった世界が、私の目の前にどんどん広がっていっていることに感謝の気持ちでいっぱいだ。

もちろん、挫折や悔しいこともたくさん経験した。大学5年生の頃から希望していた産婦人科医として南相馬に残ることはできなかったことはその1つだ。私は南相馬市立総合病院で2年間の初期研修を行った。その後、この病院にとどまって、産婦人科医になることをめざした。ところがそれはかなわなかった。理由は「南相馬市立総合病院には産科医が一人しかいないからだ」ということだった。