人間には、自分の努力ではどうにもできないことがあり、それは誰もが経験していることではないでしょうか。

今までに思いを寄せた異性が一人もいないという人は、まずいないでしょう。

さて、そのとき、自分がどれほど相手を思い、相手に自分のほうを振り向いてほしいと願っても、相手にその気がなければ、どうにもならなかったのではありませんか。恋心、愛はもっとも強い情感といえますが、それをもってしても、他人を変えることはできないのです。

その結果、相手をうらんだり、憎んだりすることになります。もちろん、その根本的な要因も、相手を「変えようとした」ことにあるわけです。

どうにもならないことは「放っておく」

禅では、どうにもならないことをどうにかしようとするところに「苦しみ」が生まれるとしています。相手を変えることは、そのどうにもならないことの最たる例なのです。

どうにもならないことは「放っておく」。それが禅の考え方です。人間関係においても、そこが基本となります。変えられないのですから、変えようとなどしない。それが放っておくということです。

変えようとすれば、相手が変わらないことに苛立ったり、腹立たしくなったりすることがあると思いますし、それがストレスにもなるでしょう。しかし、放っておけば、心が騒ぐことも、気持ちが煩わされることもありません。

そして、それまでとは違った距離感で付き合うことができます。すなわち、距離を充分にとって、割り切った関係が保てるのです。先の上司の例でいえば、何かと仕事に口出しをされても、聞き流せるのではないでしょうか。

どんな相手に対しても、変えようとしないというスタンスは堅持です。そうすることで、あらゆる人間関係は目に見えてシンプルになりますし、風通しのよいものにもなるのです。