出口を模索する日銀vs、緩和継続の首相官邸

では今後、どのような政策転換が考えられるのだろう。具体的には、長期金利をゼロ近辺に誘導する目標を変更、短期のマイナス金利を維持したまま長期金利の誘導目標を0.5%程度に引き上げることが一つのシナリオとして想定される。ゼロ近辺に誘導する国債の年限を10年から5年に切り替える手法も考えられる。

こうした政策変更が実施されれば、イールドカーブが立ち上がり、金融機関の運用環境は改善するだろう。

ただ、日経平均株価が3万円の大台に乗せるとか、大幅な賃上げを通じて物価の上昇ペースが目に見えて早まるという経済環境の急速な変化でもなければ、日銀が自在に、こうした引き締めへの政策変更を実施するのは難しいだろう。やはり、カギを握るのは安倍官邸の「政治な意向」と言える。

安倍が、経済政策の実績をアピールするために「デフレ脱却宣言」に踏み切るとの観測が出ている。

ただ、デフレ脱却宣言に打って出れば、それはアベノミクスの成功と物価の上昇を意味するから、逆説的だが、2019年10月の消費税率の引き上げに際しては、引き上げ以外の選択肢がなくなるという意味で、安倍は一段とフリーハンドを失う。さらに、金融緩和の出口を模索する黒田日銀に、引き締めに政策転換する格好の口実を与えてしまうことにもなるだろう。

安倍が、2018年秋の総裁選での3選を目指し、憲法改正に野心を抱いている以上、デフレ脱却の実績作りより、異次元緩和の継続による円安、株高を好感するだろう。

こうした意味でも安倍が腹心の本田を副総裁として日銀に送り込み、緩和の出口を探る黒田日銀をけん制する人事カードが有効に機能することになりそうだ。

異次元緩和の出口に向けて布石を打っておきたい黒田日銀と3選を目指す安倍官邸の駆け引きが、2018年の金融政策や日本経済の先行きを占う重要なカギの一つとなりそうだ。この駆け引きが市場に不協和音と受け取られると、思わぬ波乱が起こるかもしれない(文中敬称略)。

小野展克(おの・のぶかつ)
名古屋外国語大学教授。1965年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。89年共同通信社入社。日銀キャップ、経済部次長などを歴任。嘉悦大学教授を経て、2017年より名古屋外国語大学教授、世界共生学科長。博士(経営管理)(2016年)。著書に「黒田日銀 最後の賭け」(文春新書)、「JAL 虚構の再生」(講談社文庫)、「企業復活」(講談社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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