自分好みの「燗上がり」を見つける

これまで見てきたように、燗酒には「有機酸とアミノ酸を多く含むどっしりとした酒」が向くことが分かった。とはいえ、居酒屋や酒販店で酒を選ぶ際には、好みの1杯に出合うための何か具体的な手がかりが欲しい。日本酒に詳しい店のスタッフに毎回あれこれ相談できるなら最高だが、そういうわけにもいかない場合には、「造り」が一つの参考になる。

例えば、自然発生する乳酸菌で造る昔ながらの「生(き)もと」や、生もとの製造工程から「山おろしもと造り」と呼ばれる工程を省いた「山廃(やまはい)もと」で造った本醸造酒や純米酒は、一般的に有機酸やアミノ酸を豊富に含む。そのため、このタイプのお酒は「燗上がり」することが多いと言える。

また、日本酒のラベルに記載されている酸度やアミノ酸度、蔵元が推奨する飲み方も、味のヒントになる。例えば、ラベルに記載された情報のうち、以下のようなポイントを目安にしてみよう。

日本酒のラベルは、味のヒントになる。
【酸度】日本酒に含まれる酸の総量を示す指標。乳酸、コハク酸、リンゴ酸など約30種類も存在し、味わいに影響を与える。酸度が高いほど濃厚で辛く感じ、低いとさらりとした淡麗で甘く感じる傾向がある。1.5以上が濃醇(のうじゅん)、それ以下が淡麗の目安。
【アミノ酸度】米のたんぱく質が分解されることによって生じるアミノ酸の総量を示す指標。アラニン、グリシン、アルギニンなど約20種類のアミノ酸が含まれている。味わいの濃淡を判断する基準となり、アミノ酸度が高いほどコクと旨味のある味わい、低いとすっきりとした淡麗の味わいになると考えられる。1.5以上が濃醇、それ以下が淡麗の目安。

ただし、これはあくまで目安だ。吟醸系はよくお燗に向かないと言われるが、吟醸香が控えめですっきり飲めるものは、燗にすると透明感や上品さにつながるものもある。感じ方は人によってさまざまなので、タイプの異なる燗酒を飲み比べながら回を重ね、自分好みの1杯を言語化してプロに伝えられるようになると、より好みの酒と出会う精度は上がる。

参考文献
・『清酒に含まれる有機酸の酸味と飲用温度の関係』(2011 日本醸造協会誌 第106巻 第11号)
・『日本酒の教科書』(2010 新星出版社)
・『&SAKE 二十歳からの日本酒BOOK』(2015 日本酒造組合中央会)

黒川なお(くろかわ・なお)
編集・ライター。1983年生まれ。横浜国立大学大学院 (技術経営)修了。CSRレポート、エリアガイド等の編集を経て、ECサイトにてライターとバイヤーを兼務。地方の生産者を取材し、逸品を紹介する記事執筆に従事。2017年に独立後、主にマネジメント、マーケティング、サイエンス(生物学)の分野で執筆。
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