「私の話をまったく聞いてもらえなくなりました」

中国版「ゼクシィ」の創刊準備では、ゼロから上海に会社を立ち上げ、中国人を13人採用した。日本から赴いたのは柏村さんを含めて4人。ほかの3人はバックオフィス担当で、営業や制作を統括するのは柏村さんの役割だった。

(上)2004年 29歳 上海瑞可利有限公司(中国ゼクシィ)運営総監
(左下)2012年 37歳 CAPカンパニー ポンパレ室MD2部MD部長
(右下)2015年 40歳 リクルートホールディングス執行役員(現任)

「スタッフ全員が中国人だったのに、当時の私はニーハオしかわからないような恐ろしい状態(笑)」

言葉は慣れればそれなりに通じる。しかし価値観は違った。たとえば、大きなイベントを仕掛けている最中に、責任者の中国人従業員が他社に転職。柏村さんは最初「裏切られた」と思った。

「でも、悪気はないんです。転職すれば給料が40%アップするから当然だと考える。むしろ厚遇を提供できない私たちに問題がある。同じ人間だから、親が亡くなったら悲しいとか、美味しいものを食べたらうれしいとか、ほとんどの価値観が共通する。けれど、違いがあると実感しました」

この価値観ギャップが原因で組織はまとまりを失い、空中分解寸前というところまでいってしまう。柏村さんはミーティングを頻繁に開き、クライアントと読者にプロダクトの価値を伝えていくことの大切さを説いて、仕事のプロセスを逐一チェックした。そのような“日本の当たり前”が価値観の押し付けと受け止められたのだ。

「私の話をまったく聞いてもらえなくなりました」

そんなとき、1人の中国人マネジャーが助け舟を出してくれた。

「彼女が僕たちや仕事のことを本気で考えていないとしたら、毎日あんなに一生懸命ミーティングする? 1回ちゃんと話そうよ」

みんなにそう話してくれた。柏村さんも自分を見つめ直した。

「それからは最終的なゴールと、ここから先はやってはいけないというOBラインだけを示して、仕事の進め方は部下たちに頼るようにしました。頼るマネジメントは、今も大切にしています」

これを境に中国人スタッフとの関係が変わっていく。最後は300人ほどに増えたスタッフと家族のような付き合いに。仕事を通して、中国のブライダル・シーンを変えたという達成感もあった。