約9割が経営のサポートは不十分と回答

(3)リソースの確保と配分

現業がある中で、デジタル化の推進にどの程度の資金と人材を配分し、また、取り組みの推進の段階に応じてその配分割合を変化させる判断をすることは経営の重要な役割である。

経営のリソース配分への満足度は全般に低く、CDOサーベイにおいて、特に自社はデジタル化の実行段階にあると認識している回答者の88%が経営層のサポートが不十分であると回答している。また、調査を行ったすべてのリソース項目において、検討フェーズから実行フェーズに移行すると不十分であるという認識が30ポイント高まっており、特に、人材の質においては最も高い42ポイントの差がでている。当初は既存の体制で対応できると思われていても、取り組みを進めると新しい人材、能力が必要だと気付く。

最後にCDOの特徴をご紹介しよう。グローバルでもCDOが近年急速に浸透しつつある。2016年のCDOサーベイで確認した475人のCDOのうち、60%が2015年以降に役職についた新しいCDOである。

その出身は、マーケティングが最も多い。業界別に見ても、従来直接消費者との接点を持ってこなかった業種もマーケティングや営業出身のCDOの割合が多い。デジタル化による変革の主眼は従来マーケティングやチャネルの課題の解決におかれてきた。ただし、直近ではテクノロジーのバックグラウンドを持つCDOが、大きく増加している。これは、今後取り組みの全社的な展開に向けてテクノロジーの強化が求められていることを反映している。

CDOは社外からの招へいが半数近くにのぼる。社外からのCDOの招聘は従来の常識にとらわれないスピード感をもった本質的なデジタル化の推進という意味では極めて有効である。一方で、いかにCDOと企業が協力して、社内のインフォーマルなネットワークを理解し、力を発揮しうる環境をつくるのかが重要となる。逆に、社内出身のCDOは、自社や事業の深い理解から変革を推進するためのツボを心得ている一方で、自社を根本的に変革するための刺激を外部から積極的に吸収する必要がある。

※CDOサーベイ(グローバル)は、以下の手法により調査を実施
ブルムバーグのデータに基づく2016年7月1日現在で全世界の時価総額トップ2,500社のCDOの有無、バックグラウンドなどの分析(2015年までは1,500社を対象としていたものを拡大)。CDOの有無を調査するために、企業役員データベース(Avention、BoardEx)、記者発表(Factiva)、各社ホームページ、ビジネス向けSNS(LikedIn、Xing)その他のインターネット調査を実施
※CDOサーベイ(日本)は、以下の手法により調査を実施
インターネット調査:従業員500人以上の企業の部長職以上2,423名を対象にスクリーニング調査、自社はデジタル化を推進しているとした、従業員500人以上の企業の部長職以上300名に対して本調査を実施。調査期間2016年11月
インタビュー調査:特徴的なデジタル化の取り組みを行っている企業(10社程度)のデジタル化推進責任者に対するインタビュー調査。調査期間2016年12月~2017年1月

唐木明子(からき・あきこ)
PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング(Strategy&)パートナー
東京大学法学部卒業、コロンビア大学ロースクール修了(LL.M)。外資証券会社にて社内弁護士として東京・ニューヨークで勤務。マッキンゼー・アンド・カンパニー、金融機関を経て、Strategy& 東京オフィスのパートナー(現職)。国内外のリテール、金融サービス業、ヘルスケア、その他分野のクライアントと、新規事業や商品・マーケティング戦略に伴う成長戦略等のテーマについて、多様なコンサルティングプロジェクトを手がける。また、CDOリサーチのスペシャリストでもある。日本企業の成長戦略実現に必要なダイバーシティの推進にも取り組んでいる。現在、ロンドンオフィスへ出向中。