コーヒーの抽出や提供を行う「バリスタ」という職業がある。カフェ人気でいまや若者がなりたい職業のひとつだ。今年9月、このバリスタの技術を競う日本大会が開かれた。予選を勝ち抜き、決勝に進出したのは6人。このうち3人は同じカフェの従業員だった。カフェの名前は茨城のサザコーヒー。同店は、急速に技術力を高めている。その裏側を紹介しよう――。(第2回、全3回)

バリスタの国内選手権で3人入賞

今年の9月20日から22日の3日間、東京ビッグサイトで「SCAJ2017」というイベントが開催された。“アジア最大のスペシャルティコーヒーイベント”を掲げ、コーヒー業界の各社が会場内に専用ブースを出すほか、各種のイベントも実施された。ちなみにSCAJとは、日本スペシャルティコーヒー(Specialty Coffee Association of Japan)の略だ。

多彩なイベントの中で、最も業界関係者が注目したのが「JBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)の準決勝・決勝」(20日~21日)だ。コーヒー職人であるバリスタの国内選手権で、出場する各バリスタが、エスプレッソコーヒーを審査員に提供した。制限時間15分の中で「エスプレッソ」「ミルクビバレッジ」「シグネチャービバレッジ」の3種類の創意工夫したドリンクを淹れる。コーヒーの味覚だけでなく、提供するまでの一連の作業や動作を、清潔感、創造性、技術、プレゼンテーション面から審査されるのだ。

今回の大会で特筆されたのは、予選・準決勝を勝ち抜き、ファイナリスト(決勝進出者)となった6人のうち3人が、茨城県に本店があるサザコーヒーの社員だったことだ。ただし頂点はとれず、優勝は石谷貴之氏(フリーランスのバリスタ)で、決勝進出10回目にしての悲願のJBCチャンピオンに輝いた。サザの最高順位は準優勝だった。

2年連続準優勝者は、営業マン

「バリスタ」という言葉は聞いたことがあっても、どんな活動をしているのかはあまり知られていない。そこで、サザコーヒーのファイナリスト3人の横顔を紹介しよう。

まずは3人のうちで、最も経験豊富な本間啓介氏(32歳)だ。サザコーヒー本店がある茨城県ひたちなか市の出身でJBC決勝進出は3回目。2年連続で準優勝だった。一般には、毎日コーヒーを淹れる日々を送っているように思うが、本間氏は営業部所属。

「週のうち3日は、ひたちなか市・水戸市・那珂市・那珂郡などの営業エリアをクルマで回り営業しています。それ以外は、各店の周年イベントやリニューアルイベントでコーヒーを淹れたり、卸先向けのセミナー講師を担当したりすることもあります」(本間氏)

2年連続で準優勝だった本間啓介氏のプレゼンテーション。

ふだんは普通の会社員なのだ。実は、ひたちなか市の市長・本間源基氏の次男でもある。学生時代はサッカーに打ち込み、サザコーヒーに入社。営業部所属の傍ら、大会に向けて研鑽に励み、“市長の息子”が通用しない世界で実績を積み上げた。筆者は、ひたちなか市・那珂湊で行われた「みなと産業祭」で本間市長を取材したこともある。当日は雨の中、会場に設営されたテントで、啓介氏は来場者にコーヒーを淹れていた。

「日頃は店に立ちませんが、イベント時には、1杯ごとのドリンクで妥協や手抜きは一切しません。すべてのお客さまが自分のコーヒーを求めて来られた――という意識で、抽出・提供しています。それが大会のルーティーンへつながっていると思います」 (本間氏)