トヨタ自動車の生産性向上では欠かせない「カイゼン活動」。しかし、その表面をまねるだけでは、うまくいきません。トヨタ子会社のOJTソリューションズは、トヨタの組織改善の手法を『トヨタの現場力 生産性を上げる組織マネジメント』(KADOKAWA)にまとめました。本書から、生産性向上の取り組みで陥りがちな3つの過ちについてご紹介します――。

「改善」「原価低減」の実現に大切なこと

昨今、製造業以外でも多くの企業で急浮上しつつあるテーマが「生産性向上」。構造的な人口減の中での景気回復で深刻な人手不足に陥ったこと、育児・介護等の理由でフルタイムでの仕事が難しい働き手が増えたことから、より重要性が増しているテーマです。

(株)OJTソリューションズ 『トヨタの現場力 生産性を上げる組織マネジメント』(KADOKAWA)

この生産性向上に、製造業は古くから取り組んできました。トヨタも例外ではなく、昭和初期に技術・資源・設備面等で圧倒的に勝るアメリカに対抗して、国産車をつくることを目指していました。この時に生まれたのが、現場で働く一人ひとりが知恵を絞って、現状をよりよい形に進化させていく「改善」です。これは現在でも続いており、トヨタの決算発表の場では「為替変動」等と別に「原価低減」の項目が必ずでてきます。この「改善」「原価低減」は、前述の生産性向上のための重要な手段です。

OJTソリューションズでは、トヨタの現場で40年にわたって生産性向上に取り組んできたトレーナーたちが、350社以上の企業の取り組みをお手伝いしてきました。その中で見えてきた、生産性向上の取り組む中で陥りがちな過ちを3つご紹介します。

(1)「機械化」は「作業改善」を突き詰めてから

生産性向上の手段はさまざまですが、代表的な手法は2つです。1つは「機械化」で、現状の人手による作業をシステムや機械にそのまま置き換えること。製造業であれば自動機械の導入やライン増など、サービス業であれば事務作業やバックヤードの人手作業をシステムやロボットに代替してもらうことが該当します。

もう1つは「作業改善」。現状の人手による作業の内容自体を見直すもの。元々1時間でやっていた作業を、さまざまなムダを無くしたり不要な作業をやめたりすることで30分に短縮することなどは、こちらにあたります。

両者とも有効な手法ではありますが、まずは作業改善を行った上で機械化に移るという順番が基本です。なぜかと言うと、弊社の顧客企業でも多く見られる傾向ですが、劇的にアウトプットを増やすために、どうしてもまず機械化に目が行きがちです。しかし、非効率なやり方や不要な作業がある状態で機械化すると、ムダな仕事がそのまま残ってしまいます。さらに、本来の需要を確認しない状態でアウトプットを増やすと、必要以上の設備投資・システム投資が原価アップの要因にもなってしまうのです。

極限まで作業改善を行った上で着手する

作業改善の重要性をご理解いただくために、弊社のトレーナーのトヨタ時代のエピソードをご紹介しましょう。彼が働き始めた1960年代後半は、プレス工程での生産車種切替が約3日かかっていました。この当時、紙1枚の厚さレベルまで何度も微調整が必要な切替作業は、特定のベテランのカンコツに頼っていました。

しかし、高度経済成長期の需要増・車種増の中で、車種切替の時間短縮が強く求められるようになり、誰でもスムーズに作業ができるように調整作業の数値化に着手。切替時間は1970年頃には約半日に、1970年代前半には300秒になり、ここで初めて機械を導入して最終的には80秒になりました。もし3日の段階で機械化していたとしたら、膨大なライン数が必要になり、複雑な動きをするメンテナンスが難しい機械が大量に生まれていたことでしょう。

このように、生産性向上にあたって機械化は重要な手段ではあるものの、極限まで作業改善を行った上で着手するという順番を間違えないでください。