日本企業にとっての中国の二重の意義とは

そうした生産基地としての魅力に加えて、最近は市場としての魅力を中国は備え始めている。それが中国の経済活力の意味するところである。そのいわば二重の意義が、日本企業にとって重要な意味をもっている。

日本企業にとってこれまで最重要国だったアメリカは、突き詰めれば市場として意義をもった国だった。決してアメリカ国内での生産基地が大きな意義をもっていたわけではない。たしかに、消費地立地のためにアメリカでの生産を必要とする企業もあっただろうが、しかし人件費も労働環境も日本企業にとってはそれほど魅力的ではなかったのがアメリカだった。それでも自動車産業などの多くの工場をアメリカに造っていったのだが、それは経済摩擦回避という政治的理由ゆえだったと思われる。

世界最大の経済としてのアメリカ市場の需要の構造、そこへの日本企業の供給構造、その需要と供給の絡み合いの中から、高度成長期から1980年代までの日本の産業構造の骨格が決まってきた。たとえばオイルショックの中で70年代に日本の産業構造が自動車とエレクトロニクスに大きく傾斜していったのは、アメリカ市場での需要が膨らんでいったからである。つまり、アメリカ大陸が日本の産業構造を決めていた時代があった。

せんじ詰めればアメリカが市場としての意義しか日本企業にとってはなかったことに対して、中国は市場としても生産基地としても、両方の意義を深くもっている。より正確に言えば、中国の市場としての意義が生産基地としての意義に大規模に付け加わり始めたのである。

日本の経済発展の歴史を考えると、市場としても生産基地としても両方で意義を深くもつ大国が登場したのは、歴史上はじめてではないだろうか。アメリカは市場としての意義だけ、EUも市場としての意義だけ、これまでの中国は生産基地としての意義だけだったのである。

その事実は、中国大陸が21世紀の最初の数十年間の日本の産業構造を決める、ということを二重に意味している。第一に、中国のどのような国内需要に対して日本列島から供給するか。これと同じ問題はすでにアメリカとの間で経験済みで、それが80年代までの日本の産業構造の骨格を決めてきた。第二に、中国国内の生産基地と日本列島との分業体制をどのように築いて世界の市場に供給するか。これは対米では経験しなかった新しい問題である。