3週間、レジ打ちや接客を続けた理由

伊藤忠時代、伊藤雅俊さん(イトーヨーカ堂名誉会長)や鈴木敏文さん(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)とアメリカ出張に同行する機会が何度かあった。アメリカのセブン-イレブンを日本のセブン-イレブンが買収して再生するプロジェクトに参画していたからだ。

ファミリーマート社長 澤田貴司氏

伊藤さんも鈴木さんもアメリカへ行くたびに、とにかく店から店へと足を運ぶ。実際に商品に触れたり、食べたり、店長の話を聞いたり。これだけ成功している企業のトップが自ら足を運ぶことに大きな衝撃を受けた。

その後出会った、モスバーガーの創業者・櫻田慧さん、日本マクドナルドの創業者・藤田田さん、スターバックス会長・ハワード・シュルツさんらもみんな、現場に足を運び、現場を理解したうえで仕事をしていく人たちだった。「自分もそうなりたい」と強く思ったのを覚えている。

すべての答えは「現場」にしかない

ところがファーストリテイリングでの副社長時代、フリースのキャンペーンをしていたときに、そのことを怠り、柳井正社長に怒られた。「澤田、どうして爆発的に売れている店舗があるのに、こっちの店舗では全然売れていないんだ。おまえは現場へ行ったのか?」と聞かれたのに対し、とてもすぐに行ける場所ではなかったので「行ってません」と答えた。すると「バカヤロー!」という言葉とともに、「だったら店舗の様子を撮影してもらって、すぐにメールで送ってもらえ。残っている商品のサイズも教えてもらうんだ」とアドバイスをくれたのだ。

すると、売れている店では50色のフリースがきれいに並んでいて、サイズもバランスよくそろっている。売れていない店は色数もサイズもそろわず暗い色の商品ばかりが残っている。「自分は、こんな事実がわかっていなかったんだ」と猛省した。

経営資料を見ていると、なぜ商品の回転率が悪いのか、利益率が低いのか、売れているのに在庫が少ないのかなど、次々と「なぜ?」という疑問が浮かび上がる。それに対する仮説を立てて、一つ一つ確認をしに店舗や工場などの現場へ行くのが、いまの基本スタイルだ。

ファミリーマートでは3週間の店舗研修も受けた。何度やってもできないオペレーションが大量にある。マニュアルも膨大。知らなかったら業務改善できずにいただろう。