「QA担当者」には社長といえども逆らえない

一方で神戸製鋼の不正ドミノの元凶は何かと問われれば、クオリティ・アシュアランス(QA)という発想の欠如が大きいと私は考える。クオリティ・コントロール(QC)は日本の製造業の強みとしてよく知られているが、QAはなじみが薄いかもしれない。「品質管理」のQCに対してQAは「品質保証」と訳されることが多い。QCとは自社製品の品質向上や生産性向上を目的とした生産者の自主活動体系のことだ。これに対してQAとは会社の外側から第三者の目線で、製品やサービスのクオリティを検証、ユーザーに保証していく活動体系を指す。たとえば自動車会社がニューモデルを市場に投入する予定があるとしよう。各種のテストをクリアして製造部門側に立つQCが「基準を満たしている」と判断しても、市場・株主側に立つQA担当者が「この車を当社のブランドとして市場に投入するには○○の点でまだ十分とは言えない。十分なテストデータが出るまで出荷を控えるべきだ」と判断するケースがある。新製品をリリースするか否か、最終判断は業績を上げたい社長ではなく、企業の長期的名声維持に責任を持つQA担当者が決める。もう少しマイルドな言い方をすれば、社長といえどもQA担当者の懸念を無視して突っ走ることがないように会社としての仕組みを持っていなければならない。

組織図的に言えば各事業部の中にQC担当者がいるのに対して、QAはトップの直轄。そして市場へのリリースに関しては社長よりも権限が上だ。従って「今期の売り上げ目標達成のために出せ」とか「事業計画でこうなっているから出せ」と事業部長が騒いでもQA担当者が明確なデータと理由をもって「NO」と言えばそれまで。トップも逆らえない。トップは製造物責任を負っているから欠陥のある商品は出せない。しかしQC上の欠陥はなく、会社のためになる商品でも、顧客や消費者のためにならないことが世の中にはままある。この商品を市場に出したらどのような使われ方をするのか、あらゆる場合を想定して、品質を保証するのがQAの役割なのだ。