イリーをスマホ用アプリにしない理由

そうはいっても、首から提げるものが増えるのはイヤ、旅行時にはできるだけ持ち歩くデバイスは減らしたい、というニーズがあるのも事実だ。当然「スマートフォン用アプリは作れないのか」という問い合わせもあるという。しかし、アプリではなく、単体のデバイスであるということが、イリーの大きな差別化ポイントだと中野氏は語る。

「アプリ化してインストールできないんですか、というお問い合わせはものすごく多いですね。すでにある翻訳アプリを見ると分かると思いますが、使いたいと思ったとき、まず画面ロックを解除して、翻訳アプリのある画面を開き、アイコンをタップして起動するという操作が必要です。誤タップや、アイコンを探して画面をいったり来たりという人もいるでしょう。さらにそこから話したいことを入力する。不慣れだったり、焦っていたりするときほど、どうしていいか分からなくなり、時間がかかるかもしれません。

仮にスムーズに入力できたとしても、ネット環境が不安定だと、応答がなく待たされるということがあります。また、話しかけながら地図を見せたいときなどは、画面をいちいち切り替えて使わなくてはなりません。出てきた翻訳も、旅行に特化していなかったら正しいかどうかわかりません。ネット環境が不要で、スタンドアロンで翻訳できるイリーなら、そういう機会損失はありません」(中野氏)

例えば「それは高いですね」と日本語で言う場合、価格のexpensiveなのか、高さのtallなのか、シーンが分からなければ判断は難しい。イリーは旅行会話に特化しているので、そういう場合は価格のexpensiveが優先されるという。もちろんtallが使われないわけではない。まったく知らない言語では翻訳結果の正しさもわからない分、きっと正しく翻訳されているに違いないという安心感も大切だ。もちろん「値段が高いです」とイリーに優しいフレーズで話すのも使いこなすコツなのだが。

双方向の翻訳機能についても同様だ。過去にはボタン1つで切り替えられる双方向機能を搭載したイリーも試作されたという。中野氏がそれを持って海外に行ったところ、相手に貸したあとの操作説明に手間取ってしまった。相手も長文を話してしまうため誤訳を連発。微妙な空気が流れてしまったという。

「双方向へのニーズがあることは理解しています。しかし、実証実験を重ねて行くなかで、旅では、相手がどう言ったかというより、自分が言いたい気持ちや目的が伝えられないというのが大きなフラストレーションであるとわかりました。先ほどのひとことの例もそうですが、言いたいことが言えないのが一番のハードル。言いたいことが伝われば、あとはなんとかなる。気持ちを伝えられる旅をまずは打ち出していこうということで、片方向にしております」(中野氏)

 2018年には個人販売スタート

今後は翻訳精度だけでなく、対応言語数も含め、あらゆる面でイリーはブラッシュアップされていくことだろう。

「日本人って恥ずかしがり屋な方が多いので、『失敗したらどうしよう』から入るんですよ。1回失敗すると、恥ずかしがって使ってくれなくなっちゃう。でも、他の人が使っている様子を見ると、どう使ったらいいのかイメージがわきやすいですよね。なのでまずは、動画などでイリーを活用するシーンを見てもらうことで、日本人ももっと『外国の人と話したい』という欲求が高まるんじゃないかと期待しています」(中野氏)

本記事の取材後、12月6日にイリーの個人向け販売が発表された。先行販売と一般販売で価格が異なり、1万6800~1万9800円。ログバーのWebサイトに申し込んだ人には、2018年3月以降、新型のイリーが発送される予定だ。

新型イリーは、イメージキャラクターを元SMAPの草なぎ剛さんが務めるということもあって、ネットで大きな話題になった。12月6日に2018台限定で販売した特別価格(1万6800円)の新型イリーは1時間で売り切れた。2018年、海外で白い棒を持って話す日本人観光客が徐々に増えていくだろう。日本人の海外旅行のスタイルがイリーで大きく変わる、かもしれない。

初代イリー(左)と新型イリー(右)の機能比較。
■次のページでは、「イリー」の企画書を掲載します。