相撲原理主義者 vs. ハングリーな“出稼ぎ”外国人

そもそも、貴乃花親方が“相撲道”を究めようとする相撲原理主義者なのに対して、モンゴル人力士の多くは出稼ぎに来た日本で勝つためなら何でもするハングリー精神の持ち主のような印象を私は受ける。当然、両者は水と油だろう。

かつて巡業先で、出発時間に遅れた白鵬を残したまま、巡業部長の貴乃花親方がバスを発車させた「白鵬置き去り事件」が発生したと報じられたが、その一因に、こうした相撲観の違いがあるのではないか。

▼正義という名の復讐心は相撲協会にも向いている

さらに、相撲協会の執行部に対する貴乃花親方の怒りも相当強そうだ。

執行部と貴乃花親方の間の確執は昨日今日始まったことではなさそうだ。前回の理事長選で貴乃花親方が八角理事長に完敗したことや、その後協会の花形である審判部長から巡業部長に降格させられたことなどが、今回の騒動の背景にあるとも聞く。

*八角信芳理事長(写真=アフロ)

となれば、貴乃花親方が協会への不信感だけでなく、騒動を大きくして協会に罰を与えたいという処罰欲求を抱いても不思議ではない。この処罰欲求が、貴乃花親方の一連の言動の根底に潜んでいて、事態を一層不可解なものにしているように見える。

もちろん、貴乃花親方自身が口を閉ざしているので、いずれも臆測の域を出ない。ただ、1つだけたしかなのは、正義はあくまでも自分の側にあると貴乃花親方が確信していることだ。

「正義の心情には、2つの本質的な要素がある」と、イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルは述べている(「功利主義論」)。1つは「はっきりした被害者がいる」という確信、そしてもう1つは「加害者を罰したい」という欲求である。

両方とも、貴乃花親方にはある。貴ノ岩こそ被害者であるという確信、そして加害者である日馬富士、さらにはモンゴル人力士と相撲協会にも罰を与えたいという欲求がかなり強そうだ。

さらに、ミルは「正義の心情は、その一要素である処罰の欲求からみると、以上のように、人間に本来そなわる仕返しまたは復讐の感情だと私は思う」とも述べている。