まずは入門書と詰め将棋から

将棋を始めようという方に対して、私は「まずは駒の動かし方や代表的な戦法を解説した『入門書』を読みましょう。詰め将棋に親しみましょう」と言っています。私も詰め将棋の本を出していますが、詰め将棋は、王手の連続で相手の王様を討ち取る(=詰ます)もの。一手詰め(一手指せば詰み)、三手詰め(一手指して、相手が逃げたり守ったりした後、次の一手で詰み)などの易しいものから取り組むと良いでしょう。

加藤一二三先生(撮影=松沢雅彦)

三手詰めが分かると、将棋の面白さが分かってきます。私自身、小学校4年生の時に初めて詰め将棋の本を読み、「将棋って、なんて面白くて、斬新な魅力に富んでいるのだろう!」と感動したことが、この世界に入るきっかけとなりました。

また同じ小学校4年生の時に、新聞の将棋欄の観戦記を読んで、こういう箇所が目に留まりました。

「Aという棋士が冴えた攻めを繰り出した。Bという棋士が受ける手には、2~3通りあるが、どれを選んでも対抗できない」

これを読んで、「将棋はいい手を指し続けていくと勝てるんだな。理詰めの世界なんだ」と悟りました。そしてその時に、「自分はプロになれるんじゃないか」と、なんとなく思ったのです。その思いつきが今の私に続いているのですから、人生おもしろいものですよね。

特にお子さんが小さい場合、ぜひ親御さんが入門書の内容を読み聞かせて、将棋盤と駒を使って実際に駒を動かしながら、一緒に読み進めるようにしてみてください。「歩は一マスずつ前に進むんだよ」「飛車は縦と横にどこまでも進めるんだよ」などと、実際に駒を動かしながら取り組むと良いでしょう。

将棋を始めたばかりのころは、じっくり考えずにどんどん駒を動かす子どもさんが多いものです。パッパッと指し進めていくことで、びっくりするほど早くルールを覚えてくれるでしょう。多少の間違いをいちいち正すことはせず、温かく見守ってあげてください。

直感の95%は正しい、理詰めの世界

将棋は理詰めの世界です。

同時に相当悩ましいのが、将棋の指し手が10の220乗あると言われていることです。観測可能な宇宙の原子の数が、おおよそ10の80乗程度と言われているので、とんでもない数になります。はっきり言って、いくら研究してもすべてを読み切ることは無理であり、詰みまでは分かりません。

無数に手があったとしてももちろん理詰めですから、プロはパッと盤面を見た瞬間に、検討する価値のある5通りくらいの手が見えます。そしてどんな場面でも、95%くらいは一番いい手が浮かんでくるのです。これは「ひらめき」「直感の手」「第一感」と言ってもかまいません。なお私は95%と言っていますが、大山康晴十五世名人は85%とおっしゃっていました。羽生善治棋聖は70%と言っていますから、これはずいぶん控えめな評価だと思いますね。