これまでの黒人と一線を画した

そして、もう1つ大きな特徴はこれまでの黒人候補者たちの政治姿勢と一線を画したことです。従来の黒人候補者たちの主張は1960年代の公民権運動の流れの延長線でした。それこそが彼ら黒人候補者たちの独自性ともなっていたのですが、白人にすれば黒人の主張にはうなずける部分もある一方、やはり深層心理では「黒人は怖い」という恐怖が強かったのです。オバマの演説には、白人の支持を得るため、そうした恐怖感をどうすれば排除できるのかに注力した形跡がありありと見えます。それゆえ、当初、黒人層の間から「オバマは黒人の代表ではない」との批判も出たわけです。

ポケットに手を入れて気さくさを演出

また、他の男性候補やヒラリーと違って、オバマは演説中にズボンのポケットに片手を突っ込むなど、気さくさを演出しています。ヒラリーは大げさなジェスチャーで尊大な大統領候補を演じていたのに対し、オバマはわざとそれと差別化したのです。徹底的にヒラリーとの違いを演出しています。

ハーバード大学法学部大学院を卒業し、権威ある学内誌「ハーバード ロー レビュー」の編集長を務めたオバマは、エリート中のエリートでもあります。黒人のエリートはある意味、白人が最も嫌い嫉妬する経歴ですから、オバマはそんなエリート臭を必死に消す努力をしたのです。

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一方で、母が白人、父がアフリカ出身のケニア人留学生という血の問題、帰属するコミュニティーが見つからない苦悩――そういった自らの生い立ちに何度も触れながら、聴衆の心に響くキーワード、たとえば「Change」「Hope」「Generation」を演説の中にちりばめました。さらに、「We」だけでなく、「You」を上手く使い分け、聴衆自身の目線からアメリカを変えていくことをインスパイアするわけです。

オバマといえば「Change」というイメージが強いのですが、演説にみられる最大のキーワードは「Unite」(統合)だと思います。自らの生い立ちを武器にし、「アメリカ合衆国」に必要なのは「白人」と「黒人」の統合であり、「西部」と「南部」の統合であり、様々な分極化されているものの国としての統合であるとし、それができる統合者(Uniter)こそが自分だと主張しているのです。

オバマはまさに政治家になるために生まれたような人といえましょう。しかし、選挙は何が起こるかわからないものです。オバマはケニアの民族衣装のターバンを巻いた写真が・スクープ・されたとき、異常ともいえるほど動揺していました。このときは、ヒラリーに一本取られたのです。

大統領選挙中に、もし自らの血のルーツでもあるケニアで大虐殺が起きたり、ケニア人が海外でテロを行った場合、うまく乗り切ることができるか否か、共和党の謀略(サプライズ)的仕掛けも十分考えられます。

オバマが本当にこの時代に神が遣わした候補者かどうか、11月の本選挙が楽しみです。