これを見ると、第一次内閣の時の安倍首相のリーダーシップは参加的スタイルで、それが第二次内閣の時には達成指向的スタイルに変わったように見受けられます。もちろん、それは「常に達成指向型のリーダーシップスタイルが素晴らしい」という単純な話ではありません。そうではなく、「最近の日本を取り巻く状況が、達成指向的なリーダーシップスタイルを求めている」と考えるべきでしょう。

たとえば、先日の衆議院選挙において、軍事的圧力をかけてくる北朝鮮にどのように対処するのかが一つの争点になりました。そこで達成指向的リーダーシップスタイルをとる安倍政権が大勝したのは、象徴的と言って良いでしょう。パスゴール理論で読み解くならば、国民が期待する首相の「仕事の状況」は、明確なビジョンを示して不安を払拭することだったと考えられます。

部下の状況が整うまでは雌伏の時

そして、もう一つ見逃してならないのは、パスゴール理論においては、「部下の状況」もリーダーシップのスタイルを決めるということです。実は内部事情を考えると、第一次政権においては、安倍首相は達成指向的なリーダーシップをとりたくてもとれなかった可能性があります。

時間をさかのぼって当時のことを考えてみましょう。安倍氏の前任者の小泉純一郎氏は、国民的な人気を背景に、ライバル政治家ににらみを利かせて「郵政改革」というチャレンジングな目標を推し進める、まさに達成指向的リーダーでした。安倍氏も当然、その路線を継承したかったのですが、当時の安倍人気はそこまで高くはなく、むしろ麻生太郎氏や福田康夫氏など、その後総理大臣を務めた「ビッグネーム」のライバルに押され気味。辛うじて首相の座はつかんだものの、そのライバルたちに気を遣わざるを得ない状況でした。

このような「部下の状況」においては、達成指向的リーダーシップをとることは難しいのは簡単に想像できます。チャレンジングな目標を立てて、「さあ、みんなで達成しよう」とリーダーが旗を振っても、「いや、それには反対だ」という抵抗勢力がいる状況なのですから。結果として参加的なリーダーシップスタイルに落ち着かざるを得なかったのでしょう。

ところが、国民は小泉純一郎氏に引き続いて達成指向的リーダーシップを求めていたのでしょう。結果として、国民の期待と取り得るリーダーシップスタイルの間にギャップを生じたことが、第一次安倍政権崩壊の真相であるとリーダーシップの観点から著者は考えます