【田原】日本企業は組織内の空気を乱すことを許しません。典型例が東芝です。7年間も不適切な会計処理をしていたのに、誰もおかしいといえなかった。神戸製鋼所だってそうですね。留職プログラムをやると、そこでおかしいといえる人になりますか。

【小沼】はっきりしたことはいえませんが、少なくとも自分に嘘をつかなくはなるでしょうね。留職プログラムをやると、働く意味と向かい合わざるをえなくなります。自分がやっている仕事に矛盾を感じれば、何かしらの行動を起こすんじゃないかと。

【田原】とてもいいことですね。留職を経験した人に、ぜひ硬直した日本の大企業をかき回してほしい。ただ、社員が扱いづらい人材になるなら留職なんて認めないという会社は多いかもしれない。そこはどう思う?

【小沼】日本の企業は必死に変わろうとしています。真ん中の層がどう考えているのかわからないところがありますが、経営者はこのままではいけないと危機感を持っているし、若手は社会を変える仕事をしたいと思っている。出る杭は、むしろ歓迎されますよ。

「ありがとう」につながる感覚

【田原】これまで企業が人材育成のために人を外に出すというと、MBAが一般的でした。留職はMBAと違ってどんなメリットがありますか。

【小沼】仕事のやり方を学ぶ目的なら、MBAは素晴らしい仕組みです。でも、いま企業で問題になっているのは、働く人が社会とのつながりを実感しづらいこと。自分がやっている仕事や自分の持っているスキルが、誰かの「ありがとう」と本当につながっているのか。その感覚が持てないからモチベーションが高まらず、生産性も低いのです。留職は、その問題を解決するプログラムです。

【田原】というと?

【小沼】日本の大企業では仕事と社会のつながりを実感するのは難しいですが、ベトナムの農村で「この人の生活をよくしたい」と働くのはわかりやすい。留職なら、働く意義をもう1度実感して、日本に持ち帰ってもらえる。熱い社員が増えたら、それがその企業の強みになります。

【田原】留職するのは若手だけですか。

【小沼】若手中心ですが、最近は管理職層に途上国の現地を見てもらうプログラムにも力を入れています。留職者が熱い想いを持って帰ってきても、組織内にその理解者がいないと、会社や世の中を変えていくのは難しい。管理職の方にも問題意識を持ってもらって、孫悟空を見守るお釈迦様のように留職者を応援してもらえれば、会社や世の中が変わるスピードがもっと速くなるはずです。

小沼大地(こぬま・だいち)
NPO法人クロスフィールズ 代表理事 
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。

小沼さんから田原さんへの質問

Q.日本人は何を目標に働けばいいですか?

戦後、日本人ははっきりした目標を2つ持っていました。1つは、もう2度と戦争しないこと。もう1つは、焼け野原を復興させて、1人前の経済国家になること。目標があったのでどのように頑張ればいいのかも明確でした。ところが、前者については、冷戦が終わって、100%対米従属でいいのかと迷い始めた。後者の経済成長も、“失われた20年”を経験して、どのような成長を目指せばいいのかと迷いが生まれています。

いまはアメリカについていくこと、経済成長することが本当に幸せなのかというと、必ずしもそうとはいえなくなってきました。いったい何を目標にするのか。新しい幸せの定義から始めなくてはいけないと思います。

田原総一朗の遺言:新しく幸せを定義しなおせ

(構成=村上 敬 撮影=枦木 功)
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