経験則や直感による判断

学問の世界には、この問いにズバリと答えている論文があるから驚きだ。論文名は、“How Baseball Outfielders Determine Where to Run to Catch Fly Balls”、訳せば、「外野手はどのようにフライを捕球する場所を決めて走っているのか?」。

答えは、「注視ヒューリスティック」という経験則である。ヒューリスティック(heuristic)を英和辞典で引くと、「発見的な」「試行錯誤による」などと訳されているが、邦訳書では日本語に訳さず、そのままヒューリスティックと書かれていることが多い。一言でいえば、「経験則や直感による判断」と理解しておけばいいだろう。

打者が打ったボールが空中高く舞い上がる。すると、外野手は次のような注視ヒューリスティックを働かせるのだ。

<ボールを注視して、スタートを切り、注視角を一定に保つように走る速度を調整せよ>

外野手は複雑な計算などせずに、この経験則に無意識に従い、フライを捕球している。逆に、先の監督の指示に従ってしまうと、この経験則を働かせることができない。そりゃ、ポロポロ落とすのも当然だろう。

これまでの経験則を捨てた男

フライの捕球に関するかぎり、理性主義者の分は非常に悪い。捕れるボールも捕れなくなってしまう。野球に関しては、経験則や直感が勝利への近道なのだろうか。

いやいや、ちょっと待ってほしい。こんなケースはどうだろう。

ノーアウト、ランナー一塁。続く打順は2番で、クリーンアップがその後に控えている。さあ、あなたが監督だったら、どうする?

従来の経験則に従えば、送りバントか盗塁という作戦が真っ先に頭に浮かぶ。ところがこの経験則をいとも簡単にゴミ箱に放り込んだ男がいる。それがマイケル・ルイス著『マネー・ボール』の主人公、アメリカ大リーグ・アスレチックスのゼネラルマネジャー、ビリー・ビーンだ。