結果として収益構造もどんどん変わってくるはずです。コマツが展開している「KOMTRAX」(コムトラックス)というシステムは、建機に取り付けたデバイスから発信される信号をもとに、車両の位置や稼働時間、燃料の残量といった情報をリアルタイムで掴め、フィードバックできます。それによって顧客は、建設現場の生産性を向上させることができるわけで、これなどは「デジタルトランスフォーメンション」の好例といえるかもしれません。

ヒト・モノ・カネが集まらない経営のジレンマ

――ところが、業界を牽引するような大手企業の現場から、そうした画期的な日本初のビジネスモデルが出て来ません。それどころか、かつては日本を代表していた家電メーカーが軒並み苦戦を余儀なくされている。そこに“成功の復讐”と呼ばれるジレンマがある気がするのですが。

大きくビジネスモデルを変えようとしたときに、社内外の反対がどうしても出てきます。しかも、新事業には優秀な人材を当てないといけない。当然、現在の売上高を稼いでいる既存分野の人たちは嫌がるはずです。「うちはこの成功によって社員を食わせてきた」との自負があり、ヒト・モノ・カネが集まらないという経営のジレンマに陥ります。

しかし、よくよく周りを見ると、海の遠くから津波が押し寄せていて、呑み込まれるのはわかっているけれども、往々にして「いますぐではないだろう」という話になりがちです。ところが、津波は突然やって来ます。そのとき慌てふためいても手遅れというしかありません。

それと、モノづくり大国と賞賛された日本の大手メーカーには、ITを「しょせん、道具だろう」という誤った認識があったのではないでしょうか。それを活用して、何か新しいものを開発するという経験がない。ただ、これからはIT企業が自動車を生産する時代が来ているわけです。トヨタが、米国の自動車配車ウェブサイトを運営するウーバー・テクノロジーズに投資したのは、そうした危機感を抱いたからです。

――デジタル時代への対応ができないと、日本企業の末路は悲惨です。そうならないためにも、デジタル組織への転換をどう進めればいいのか。基本的な考え方を教えてください。

やはり、経営陣から変えていかないとだめだと思います。そのイノベーションリーダーがCDO(最高デジタル責任者)ですが、彼に権限を持たせ、組織を活性する形を整えていくことが重要です。そして、タスクフォースを作り、デジタルネイティブの人材を置き、顧客満足を醸成していきます。

プロジェクトを走らせるには“天の時・地の利・人の和”だと考えます。まず、デジタル時代のトレンドをしっかり把握しロードマップを描きます。その際、自社の得意分野で結果を出し、それを可視化していくのです。すると、社内の雰囲気も間違いなく前向きになるはずです。もともと、日本企業の底力には素晴らしいものがある。一刻も早く、デジタル技術による変革に取り組んでもらいたいものです。

小塚裕史(こづか・ひろし)
ベイカレント・コンサルティング 取締役
京都大学にて情報工学を修了。野村総合研究所にてシステム開発、新規事業立上げ、ブーズ・アンド・カンパニー、マッキンゼーで、事業戦略、業務改革のコンサルティング業務に従事。2012年に入社し、現職。主な著書に『日本企業の進化論』(共著)、『デジタル化を勝ち抜く 新たなIT組織のつくり方』(共著)、『デジタルトランスフォーメーション』(共著)などがある。