IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術の進歩によって、旧来のビジネスモデルからの抜本的な変革を迫る「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の波がビジネスの世界に押し寄せている。この取り組みの成否が、企業の存続をも左右しかねない重要なテーマとなっている。日本企業のデジタル化の実態を、ベイカレント・コンサルティングの小塚裕史氏に聞いた。

企業文化を変え、新しいビジネスモデルを創り出せ

――本格的なデジタル時代に突入したといわれます。事実、デジタル技術を活用した新しいサービスや企業が次々と生まれてきました。これまで日本企業もIT化に取り組んできたわけですが、今後、どう進展していくのでしょうか。
小塚裕史 ベイカレント・コンサルティング取締役

われわれは、デジタル化の流れは3段階で進展していくと考えました。最初の段階が「デジタルパッチ」です。最近はやりのRPA(ロボットによる業務プロセスの自動化)を導入するとか、AI(人工知能)を経営の現場のオペレーションに浸透させていくことなどが該当します。“Patch”という英語が意味するツギハギのように、各分野でのIT化をすることをさします。

次の段階は、それらを統合する「デジタルインテグレーション」です。ここではリアルとデジタルをうまく融合させます。例えば、リアルチャネルの顧客にEコマース(電子商取引)に誘導します。アマゾンやメルカリはまさにそれです。また、最近よく耳にする金融サービスのフィンテックもそうだといっていいでしょう。

最後の第3段階が「デジタルトランスフォーメーション」。第1段階、第2段階の成果を生かしながら、これまでの企業文化を大きく変え、新しいビジネスモデルを創り出すのです。そのために、必要なスタッフを採用・育成し、デジタルによる企業変革を図っていくことになります。

――しかし、日本企業の現状を見ると、残念ながら「IT化をどう経営戦略に応用するか」というプロセスで右往左往しています。欧米に比べて、日本ではデジタル対応が遅れているわけですね。

確かにIT化の延長線上にいると思います。いまやそこから「デジタルインテグレーション」に移行させることが待ったなし。その際、「カスタマーエクスペリエンス」といいますが、顧客に満足できる体験をさせることが大切です。スマートフォンの普及率は78%に達しましたが、企業としては顧客が驚くようなアプリを提案していく必要があります。

もし、空の旅をするためにオンラインでチケットを取るというのは、単純なIT化をしているだけです。航空会社のホームページで予約し、空港のカウンターに行った際、同じ体験ができないと、顧客は「何だ、これは?」と失望してしまいます。デジタルとリアルのサービスに違和感がある商品やサービスは生き残っていけないでしょう。

デジタル化のキーワードとしては「モノからコトへ」という表現がされます。これは、所有から体験にパラダイムシフトが起きていることを意味し、シェアエコノミーなどに代表されます。「車は所有せずに使えばいい」という流れもそうだし、「クラウドファンディング」にしても、自分のお金を価値観が共有できるビジネスに出すわけですね。