「戸籍は夫、親権は妻」という妻の苦肉の策は……

しかし、そうは問屋が卸しません。夫の実家のような旧家の場合、旧態依然とした考え方が根強く残っているため特に世間体を気にすることがあります。「戸籍」も世間体のひとつです。

「向こうの籍に入ったら向こうの孫。もう、うちの孫じゃないわ!」

夫の母親が激怒するのは目に見えています。それもそのはず、妻のところで立派に育った息子が成人した途端、どんな面を下げて夫のところへ戻ってくるのでしょうか。客観的に見れば、それは「金目当て」であり、そんな行為は到底許されないでしょう。

「誠也はうちの跡取りなんだから親権を譲るわけにはいかない。うちの孫のままが誠也のためだろう」

夫は最後に念押しをしました。

どんなに強がっても実家間の「経済格差」がひっくり返ることはないことは妻も承知しています。よって妻は「私のほうがいいに決まっている!」と虚言を吐き続けるものの、次第に自分の旗色が悪くなり、もう限界だと感じたのでしょう。

最終的にはただ黙りこむしかありませんでした。それは、「戸籍は夫、親権は妻」という折衷案が完全に消え、「戸籍も親権も夫」という結論で合意に至ったということを意味しました。

▼妻の母親は、料理嫌いで冷凍食品ばかりだった

家庭の環境、両親の性格、実家の財力……妻の生まれ育った家と夫のそれがほぼ同じなら、離婚後の子どものしつけや教育、進路などについて夫婦で意見が食い違うことはないでしょうし、安心して妻に任せることもできるでしょう。

しかし、今回の場合はどうでしょうか?

誠司さん夫婦を見てお分かりの通り、お互いが生まれ育った下地は大きく異なっており、妻にとっての「当たり前」が夫にとって「当たり前ではない」……そんなギャップがそこかしこに見受けられるのです。

※写真はイメージです

それは前述した教育方針だけでなく、小さな行き違いもあります。例えば、夫は一汁三菜を中心に栄養バランスに気を配った料理を食べて育ってきたそうですが、妻は母親が料理嫌いで冷凍食品ばかり。少しでも苦手なら無理に食べなくてもいい。

そんなふうに「偏食上等」な家庭環境で育てられたので、妻は息子にも手作りの料理を食べさせようとしなかったそうです。そうしたバックグラウンドの相違によって、夫婦の間でたびたび「食育」をめぐるバトルも始まったのでした。