パルミジャーニ・フルリエの真髄、クラシシズムへの回帰

歴史的なクロックやオートマタ(機械人形)、あるいは懐中時計のコンプリケーション*などの修復で名を成したミシェル・パルミジャーニが自分の名を冠したブランド、「パルミジャーニ・フルリエ」を立ち上げたのが1996年のこと。その時、ブランドの旗印として発表したのが「トリック」と名付けられたクラシックテイストの腕時計だった。

*コンプリケーション…複雑時計もしくは複雑機構のこと

ベゼルのゴドロン装飾やモルタージュ装飾、ダイヤルのパミエ模様のギヨシェ彫り、カボション付きのリュウズなど、クラシシズムの装飾技法全開で、ミシェルの美意識を余すところなく表現していた。そもそもトリックというモデル名からして古代ギリシャ建築における柱礎(toric)のこと。クラシシズムの旗印としてこれ以上のシンボルはない第1号モデルだった。

そして早20年が経ち2016年のアニバーサリーイヤーを契機に、今年、ブランドの原点にいま一度立ち返ってブランドの本質を宣明するかのように、オリジナルモデルをモディファイして製作した3針モデルを発表。それが「トリック クロノメーター」である。半年後にはトリック・シリーズ第2弾、分単位での時差合わせが可能なGMT時計「トリック エミスフェール レトログラード」を発表する。

「ブランドのよって立つ基盤をクラシシズムに置くことは間違ってはいませんでした。予想以上の反響にディストリビューションが追いつかず、計画数の倍に増産を掛けたところです」と話すのは、パルミジャーニ・フルリエのバイスプレジデント兼チーフ・コマーシャル・オフィサー(CCO)のスティーブ・アムステュッツ氏だ。「クラフトマンの技能を正当に、高く評価するコネッスール(目利き)の多い日本では、ことに歓迎されました。この時計のクラシシズムもパルミジャーニらしさが戻ってきたと好評です」。

高級時計の祭典2部門でアワード獲得

2017年11月8日、高級時計の最大の祭典、「ジュネーブ・ウォッチメーキング・グランプリ 2017(Grand Prix d'Horlogerie de Geneve 2017)」が開催されたが、パルミジャーニ・フルリエは2部門においてアワードを獲得した。

一つはクロノグラフ部門で、ブランド創設20周年を記念して発表された「トンダ クロノール アニヴェルセール」。クロノグラフなどすべての機構が統合されて地板に組み込まれた一体型のスプリットセコンドクロノグラフ*だ。機構の連係動作が複雑ゆえに通常はベースムーブメントにクロノグラフ、スプリットセコンド機構のモジュールを組み込むが、一体型は機構をシンプルにする分、連係動作のシークエンスがスムーズになる。それだけ精度、機能への信頼性が高くなるのだ。一体型は設計、製造の難易度が高く、これを製造できるウォッチメーカーは多くはない。トンダ クロノール アニヴェルセールはさらに視認性に優れた大型の日付表示を備えるが、あくまでもエレガントなエステティックであることがこのブランドのこだわり。技術と美意識の集大成となるモデルだった。

*スプリットセコンドクロノグラフ…2本のクロノグラフ秒針によって複数のラップタイムを計測できるクロノグラフ

もう一つの受賞がトラベルタイム部門で、前述のトリック・シリーズ第2弾「トリック エミスフェール レトログラード」である。大小二つのダイヤルで2タイムゾーンの時間を表示。昼夜表示、レトログラード式の日付表示も備えるセミコンプリケーション**をクラシックテイストで包みこんだ、まさにパルミジャーニ・フルリエの真髄ともいえる一本だった。

**セミコンプリケーション…セミ(準)・コンプリケーション。中級レベルの機構、もしくはそれを備えた時計のこと。

「高級時計に“格”があるとするなら、パルミジャーニ・フルリエの時計の格の高さは第一級でしょう。ムーブメントの性能の高さのみならず、伝統的な装飾技法を施した仕上げの美しさなど、耳目を驚かす派手なところはどこにもないけれど、その実、控えめで上品な美しさがあります。本物のラグジュアリーが持つ輝きがあります」

パルミジャーニ・フルリエの魅力をアムステュッツ氏はそう語る。