【藤本】例えば、良い現場も含めて、現状や今後を考えると、団塊の世代が退職し、技能継承がうまくなされないのではないか、若手が製造現場で働きたがらないのではないか、一部の業種、会社では仕事が急増しているのに人手が足りないという状態が続いている、などという深刻な問題を抱えています。何も対策を打たなければ厳しい局面を迎えるという認識を持っています。

しかしそれは、現場や本社や地域などが一体となって取り組むべき、別系統の因果関係に根差す課題であり、「不祥事が発覚したから現場が弱くなった」と見当はずれな論評をしていても、問題は解決しません。不祥事発覚が減れば現場力が強くなる、あるいは現場力が強くなれば不祥事発覚が減る、というような因果関係は存在しないからです。

東京大学大学院の藤本隆宏教授(左)と安井孝之氏(右)

「品質管理」の不正は長期間潜伏する傾向がある

【安井】今回の事態をどう議論すればいいのでしょうか。

【藤本】具体的データがまだ出そろっていないので、実証社会科学者としてこの件について具体的に論評することはまだできません。したがって一般論にとどまりますが、現段階でも、過去の現場観察や企業経験などから、一定の見解を述べることはできます。

私はこの種の案件に企業倫理委員などで長年関わってきました。こうした逸脱行為はむろん断じてあってはならないことですが、後ほど指摘するように、一般に品質管理部署は専門性や機密性が高く、その結果、逸脱行為が外から見えにくく、長期間潜伏する傾向があるという厄介な構造的問題が存在します。

同様の問題はまだ他の一部企業に潜在している可能性はかなり高く、明日、別の会社でこうした長期的逸脱行為が発覚するかもしれません。およそ製品安全に関わる産業の経営者で「うちに限ってそれはない」と言い切れる人はいないと考えるべきでしょう。

そういう前提で私は、以下の(1)~(5)について、事実に基づき議論すべきだと考えています。

(1)そもそもデータ改竄や不適格者による品質検査といった今回の逸脱行為が過去のある時点において始まった原因は何か
(2)こうした逸脱行為が長期的に継続し隠蔽されてきた原因は何か
(3)長い潜伏期間を経て、2017年の今の時点でこうしたケースが次々と発覚している理由は何か
(4)長期間続いていたこれらの逸脱行為の継続は、過去においてその製品の「品質不良」を引き起こしたことがあったか、つまりその逸脱行為が、現場で測定される「裏の競争力」に長期的な悪影響を与え続けたということは実際にあったのか
(5)今回の逸脱行為の発覚は、品質信頼の毀損、つまり「品質不信」という形で、その製品あるいは日本製品全体の競争力、とくに顧客が評価する「表の競争力」に今後悪影響を与える恐れはあるか

このように逸脱行為の発生、継続、発覚の原因、およびそれらの品質不良や品質不信への影響は、別々の因果関係で複雑に結びついており、それらを解きほぐして分析しないと議論が混乱するからです。