本当の介護度より「軽い認定」される危険性

悩ましいのは、調査員による要介護認定の聞き取り調査です。

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年老いた利用者本人は「自分はまだ元気だ」というプライドや他人の世話になる恥ずかしさのようなものから、要介護度をできるだけ軽く判定してもらいたいという人が少なくないようです。だから、いつもはぐったりしているのに、調査員が来ると急に張り切ってシャキッと受け答えするケースは珍しくないといいます。

その一方、介護を担う家族は、より多くのサービスが受けられる“重め”の介護度が認定されることを望みます。よって、調査員に対して「(親は)今はしっかりしているように見えますが、普段はそんなことないんですよ」と伝える。現在の老親の状態よりも軽く判定されるのは困るという意識があるわけです。

認定調査ではこうしたやりとりが行われることがあるのですが、今回の改正では、要介護度が改善されるほど国からインセンティブが支給されるため、「重い介護度を認めてほしいという家族の思いに逆行しかねない」とTさんは言うのです。

要介護度の7つの区分には一定の目安・基準があります。たとえば「要介護2」は、「立ち上がる時や歩行などにおいて自力では困難と認められ、排泄、入浴、衣類の着脱などでは介助要。生活のリズムがつかめない、記憶があいまいなどの支障をきたすような状況や他人とのスムーズな会話が困難と認められる者」とされています。「要介護1」は「要介護2」より必要な支援が少なく、「要介護3」は「要介護2」より必要な支援が多いことを意味します

▼福祉予算を切り詰めるため意図的に厳しく判定

しかし、認定調査の判定結果には自治体によってばらつきがあります。同じく首都圏で10数年の経験を持つケアマネージャーIさんはこう話します。

「親しいケアマネが集まった時などに、『A市はだいたい予想通りの判定が出る』とか『B市は判定が厳しくて、予想より軽い判定になることがある』といった話が出ることがあります。判定が厳しい自治体は財政状態の苦しいところが多い。福祉予算を切り詰めるため意図的に判定を厳しくしていると考えざるを得ません」

そうした状況にもかかわらず、今回、要介護度の改善した自治体にはインセンティブを与えられることになったのです。Iさんは「多くの自治体が要介護度の判定を、さらに厳しくするのではないか」と危惧します。

「国の狙いは、介護予防講習などの『努力』で、要介護度が改善することでしょう。しかし、『努力』をしなくても、判定を厳しくすれば、結果として要介護度は改善され、インセンティブを得ることができます。多くの自治体は、判定を厳しくするのではないでしょうか」