「期待の新製品」がヒットしない理由とは

2009年5月に発売されたトヨタ自動車の3代目新型「プリウス」が好調だ。エコカー減税の恩恵があったとはいえ、注文すると納車が8カ月先になるほどの人気ぶり(2009年8月末現在)。世界的な自動車不況で減産を強いられているトヨタにとって、新型プリウスは希望の星だろう。

新型プリウスは、トヨタが満を持して送り出した新製品である。ただ、世の中にはヒットを期待して市場導入されたものの、消えていく新製品のほうが圧倒的に多い。わが国の主要消費財メーカー1000社(回答265社)を対象に実施された「第5回ヒット商品開発調査」(日経産業地域研究所、2007年)によると、新製品のヒット率は26%。じつに4分の3の新製品が、開発者やマーケターの期待を裏切っている。

新製品開発には、つくり手側を出発点とする“製品コンセプトに基づくものづくり”と、顧客ニーズ側から出発する“マーケティングコンセプトに基づいたものづくり”の2つのアプローチがある。これまでマーケティング研究者たちは、つくり手中心の製品開発に陥るべきではないと繰り返し主張して、企業も買い手のニーズから出発するものづくりを強く意識するようになった。ところが、コストパフォーマンスに優れ、買い手がその価値をよく理解している新製品であっても、いざ市場導入すると、さっぱり売れないのである。

こうした状況を、伝統的なマーケティング理論で説明することは難しい。これまでのマーケティング研究は、買い手が購入意図を抱くところまでのプロセスを解明することに重きを置き、最終的な購入に踏み切る瞬間については、それほど掘り下げてこなかった。マーケティング理論に基づいて開発された自信作が売れない原因も、その最後の一歩に潜んでいる可能性がある。

最後の一歩を解く手がかりになるのが、心理的バイアスである。新製品というよりよい選択肢を理解していても、顧客はつくり手の期待どおりに行動してくれるわけではない。いっけん非合理的に見えるこの反応も、心理的バイアスのひとつである「現状維持バイアス」によって説明が可能だ。