富裕層の妻が「子供は1人でいい」と考える理由

この研究結果を考察する前に、前出の「Butz-Wardモデル」を富裕層世帯に当てはめて考えてみたい。

妻の所得の増加は子供の数に対する需要を減少させるという「代替効果」が、夫の所得の増加は子供の数に対する需要を増加させるという「所得効果」を上回るということはない、と考えられそうです。なぜなら、富裕層の世帯の場合、たいてい夫の収入が圧倒的に多いため、妻が働いて所得が増えたとしても、結果として子供数は抑制されることなく増加傾向になるはずです。そもそも、富裕層の世帯では女性は働かないことも多いので、子供の数は自然に多くなると考えられます。

ところが、それにもかかわらず、この「日本の高額納税者 妻調査」では、出生年が現代に近くなるにつれて、「一般人」だけでなく、「お金持ち」の妻も出生子供数が減少し、両者の差はどんどん小さくなりました。この背景には、少子化という時代の流れもあるかもしれませんが、僕は次のような仮説を考えてみました。

富裕層の家庭では、妻は子育てだけではなく、ママ友とランチやアフタヌーンティーに行ったり、展覧会などの文化活動へお出かけをしたりする機会がしばしばあります。それだけ時間もお金も余裕があるということでしょう。

そうした中で子供を増やすということは、純粋な子育ての負担とコスト以上に、追加された子供の分の子育てによって自分の自由な時間や行動が奪われるということを意味します。この「制約」が出生子供数に影響を与えているのかもしれません。

一方、お金があまり余っていない家庭では、そもそも経済的な制約からランチやアフタヌーンティー、お出かけなどを計画する回数が比較的少ないでしょう。富裕層の家庭ではそうした「お付き合い」や「遊び」が日常的にある分、子育てによる自由の拘束は大きな心理的・肉体的負担となるのではないでしょうか。特に富裕層世帯の若いママたちにとっては……。

▼なぜ「富裕層の子沢山」という状況にはならないのか

さらに深読みすれば、富裕層の家庭の女性があまり子供を欲しがらなくなった理由は、高収入層になるほど子育てはより煩わしくなるからではないかと僕は推察しています。

ちなみに、わが家の6歳の双子の年間のトータル塾費用を計算したら2人で約360万円でした。先ほど申し上げたように、富裕層は富裕層と付き合います。属する準拠集団(同一の地域に住み、同レベルの収入・学歴、など)のママ友達の情報網により、子供を通わせる塾が決定します。決定者は僕ではなく嫁です。とりわけこの教育費用については準拠集団の同調圧力が強烈に働いていると思われます。

○○塾の英語は、○○ちゃんママがいいと言っていたから入るよ」「こんどの塾は同じ幼稚園の○○ちゃんと○○ちゃんが行っているよ」など、情報を入れてはスケジュールを調整してというやり方をしていくと、塾のスケジュールは子供の空き時間をすべて使い切るまで膨張していくことになります。

子供の教育費は、そのすべてとは言いませんが、極めて「顕示的消費」であり、ママ友仲間という準拠集団内での「見栄消費」の側面が否定できません。もしかしたら、子供を持つ富裕層の女性は、こうした付き合いにだんだん嫌気が差してきて、「育てるのは1人で十分」と考える人が増えているのかもしれません。その結果、出生率は年々低下し、「富裕層の子沢山」という状況にはならないのではないでしょうか。

以上を踏まえ、質問をくださった読者の方に「結論」を述べたいと思います。

結論1:年収2000万円くらいまでは、子供の数が3人の割合が増える。ただし、最近の富裕層の平均子供出生数は2.00で子供の数は一般人とさほど変わらない。
結論2:「貧乏人の子沢山」ではなく、低所得世帯はむしろ一人っ子の割合が高い。また、「低学歴の子沢山」という傾向も認められる。

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