神聖性は皇祖神によって担保される

初代の天皇は神武天皇であるとされる。神武天皇は、『古事記』では神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれびこのみこと)と表記され、『日本書紀』では神日本磐余彦天皇(かむやまといわれびこのすめらみこと)と表記される。

神武天皇は76年間在位し、亡くなったときには127歳になっていたとされる。並外れた長寿は、日本に限らず、さまざまな地域に伝わる神話に登場する英雄や偉人の特徴であり、それは、神武天皇が架空の神話的な人物であることを意味している。

神武天皇の父は天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうかやふきあえずのみこと)であり、神であるとされている。天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命は、その叔母である玉依昆売命(たまよりびめのみこと)と結婚し、神武天皇は二人の間に末っ子として生まれた。

さらに遡れば、神武天皇の祖父は火遠理命(ほおりのみこと)で、さらにその両親は、日子番能邇邇芸命(ひこほのににぎのみこと)と木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)である。日子番能邇邇芸命は、天照大神の子である天忍穂耳命(あまのおしほみみのみこと)と、高皇産巣日神(たかみむすひのかみ)の娘である万幡豊秋津師比売命(よろずはたとよあきつしひめのみこと)の間に生まれたとされる。

ただ、天忍穂耳命の場合、天照大神を母とするものの、天照大神から直接に産まれたわけではない。『古事記』には、高天原(たかまがはら)において、天照大神と須佐之男命が「誓約(うけい)」をする場面が出てくるが、須佐之男命が天照大神から受けとった珠(たま)を噛み砕き、そのときに吐き出した息の霧から生まれた5柱の神の一つとされる。

「現人神」であるという信仰

ここから、天照大神は神武天皇の祖神であり、皇祖神とされるわけだが、それは神話に語られたことであり、歴史上の事実としてとらえるわけにはいかない。

ただ、こうした神話をもとにして、天皇は神につらなる存在であり、地上にあらわれた神そのもの、いわゆる「現人神(あらひとがみ)」であるという信仰が成立した。

天皇のあり方について規定した日本国憲法においては、天皇を神としてとらえるような条文は含まれないが、その前身である大日本帝国憲法においては、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」(第3条)とされていた。ここでは、天皇が神であると明言されているわけではない。しかし、天皇が神聖であることの理由を求めるならば、神につらなる存在であるというところに必ずや至るのである。