私という人間は自由奔放で、超がつくほどのマイペース、そして何より指図されたり束縛されることが嫌いです。「同調」を強いられる窮屈な組織の中では伸び伸びと生きてはいけなかったでしょう。しかし、医師という、比較的自由で変化と刺激に富み、探究と検証が求められる職業を選んだことは幸運でした。そしてなにより、自らも発達障害であるおかげで、患者さんの悩みを理解し共感することができます。精神科医は天職であったと思えるのです。

とはいえ、もともと私は人の話をじっくりと聞くのは苦手な性分です。しかし、長年、さまざまな患者さんと接するうちに、私は自らの「発達障害」を俯瞰(ふかん)できるようになりました。反面教師というのは失礼な物言いかもしれませんが、患者さんから学ぶことはとても多く、診察とともに自分の感情を冷静にコントロールできるようになっていったのです。

障害への理解が2次障害を防ぐ

私の診療は「とことん話を聞いて、これでもかとしつこく尋ねる」問診が主です。まずは患者さんが抱えた思いを存分に語ってもらい、次に患者さん本人だけではなく、家族やパートナーにも質問をします。どんな子ども時代だったのか、両親の言動は? 兄弟や姉妹との関係は? など、詳しく聞きます。小児期における生活ぶりをあきらかにするためにも、家族からの聴取は重要です。「星野流根掘り葉掘り」と言われる入念な問診で、必ず治療の糸口が見えてくるのです。

またご家族やパートナーの方には、一方的に本人を叱ることや感情的に泣いたり落ちこんだりすることは発達障害の改善につながらないことをお知らせし、2次障害を防ぎ、家族がともに考えていく基盤を作るようにしています。

私の育った家庭はいわゆる「機能不全家族」(家族としての機能が果たせず、子どもが健全に育つ条件が欠けている家族のこと)でした。発達障害に機能不全家族が加わると症状の悪化や2次障害を起こしやすくなります。虐待や暴力、ネグレクトなど、自分が子どものころにされたことを自分の子どもにしてしまう世代間伝播という問題も顕著です。しかし、「自分は機能不全家族に育った」という自覚がしっかりあれば、世代間伝播は食い止められます。傷ついた過去をうやむやにしたり、なかったことにするのではなく、しっかりと受け止めて「知ること、感じること、悟ること」が大事なのです。