「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言がある。賢き先人たちは、古典の知恵に学び、ピンチを切り抜けてきた。雑誌「プレジデント」(2017年5月29日号)では、戦略書の古典「孫子」の特集を組んだ。今回は特集から、経営戦略コンサルタントの鈴木博毅氏による「派閥争い」についての考察を紹介しよう――。

会社にとってどれがよいかで決断すべき

Q.派閥争いが激しくなり、社内がギスギスしている状況で、部下から社内の人間関係の悩みを相談されたが、うかつに答えると、派閥抗争に巻き込まれ、やぶ蛇になりかねない。強いほうに付くべきか、正しいほうに付くべきか。

A.鈴木博毅さんの回答

派閥抗争に巻き込まれそうなときに、強いほうに付くか、世話になったほうに付くか、旗幟を不鮮明にしておくかの3択だとすると、会社で生き残るならば、強いほうに付くのが正しいでしょう。

『孫子』の思想は『負ける勝負はどんなに美しく見えても絶対にしない』です。得てして日本人は生き残りに執着せず、負けるとわかっている勝負にあえて挑むことを美化する風潮があります。

しかし、自分が犠牲になってとか、自分が我慢すればというのはレベルの低い判断です。美学で判断するしかないところまで追い詰められてしまったのは、事前の準備や前段階でリカバリーすべき問題を解決しなかった結果です。

美学で判断した行動というのはマイナスが大きいもの。先手先手を打ち、美学を発揮しなくても生きていける選択をすることが大切なのです。

このケースで本当に望ましいのは「強いほうに付く」でも「正しいほうに付く」でもなく、会社にとってどれがよいかで決断することです。智者の慮(りょ)は必ず利害に雑(まじ)うとは、必ず利益と損失の両面から物事を考えるということです。選択肢の設定を変えて、別な角度から物事を眺めてみましょう。

会社の風向きはいつ変わるかわからないですし、数年後には違う勢力地図に変わるというのもよくあること。今、強いほうに付いていってもその先は袋小路かもしれません。

現状の勢力関係に囚われずに『あいつは常に会社全体に貢献する考え方をする人間だ』と認められたほうが、誰が上に就いても使ってもらいやすい立場になります。どの派閥に属しているかよりも、会社全体の利益を考える人間だと思われるような判断を優先すべきでしょう。