「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言がある。賢き先人たちは、古典の知恵に学び、ピンチを切り抜けてきた。雑誌「プレジデント」(2017年5月29日号)では、戦略書の古典「孫子」の特集を組んだ。今回は特集から、中国古典研究家の守屋淳氏による「職場の人間関係」についての考察を紹介しよう――。

ビル・ゲイツや孫正義も愛読

国がいかにして生き残るかを著した『孫子』は、企業の生き残りと重ね合わされ、現代でもビル・ゲイツさんや孫正義さんをはじめ、多くの経営者に読まれています。

組織論として読まれることの多い『孫子』ですが、個人の生き方にも孫子の兵法は応用できるのでしょうか。大勢が助かるために自分が囮となった場合、リストラされる側になった場合など、切り捨てられる側になったとしたら、喜んで受け入れられるものではありません。

企業の研修で「従業員を解雇しやすいアメリカ型経営と解雇しにくい日本型経営の、どちらを選びますか」と問うと、真っ2つに分かれます。で、アメリカ型経営を選択したグループに、自分がリストラされる側になっても受け入れますかと問うと「うっ」と詰まる。上からの目線と下からの目線はやはり違うものです。

アメリカ型経営をするならば、リストラで辞める社員がほかでも食べていける技量を身に付けさせてから出すべきです。それができないと、本当にひどいことになります。

今や日本を代表する大企業といえどもクビ切りは当たり前になってしまいました。

しかし、大企業に勤めている人ほど、社内で自分の何が武器になるかはわかっていても、一般社会に出たときに何が武器になるのかを考えていません。生き残るためには「何で勝つのか、どこで勝つのか、いつ勝つのか」という3点は個人としても常に考えるべきです。