木、火、土、金、水の5つで自然界はできている

「五行説」という考え方があります。さかのぼること2200年、紀元前305年から240年に生きた中国の学者、鄒衍(スウエン)が確立したと言われています。木・火・土・金・水の5つの要素で自然界は構成されていると説き、その他にもさまざまな理を5つの要素に分類したものです。

仕事上がりにビールをグビリ――「五臓六腑に染みわたる」というのも、五行説の五臓(肝、心、脾、肺、腎)と、五腑(胆、小腸、胃、大腸、膀胱)に、総合的な腑である三焦(さんしょう:消化管)の組み合わせを由来とし、すなわち「あらゆる内臓にいきわたる」という意味があります。

内臓を分類するくらいですから、この五行説は東洋医学の中核的なコンセプトにもなっています。図の五行表を見てください。基本となる五行に始まり、五色、五方、五時などさまざまな分類があります。これを横串に眺めていくと五行説の端緒がうかがえます。たとえば、酒を飲みすぎて肝臓を傷めると、白目が黄色く濁ることがあります。そこで木の行を横に見ていくと、五臓が肝、五官が目とある。ここに相関があるために、肝臓の不調は目に現れます。また、口内炎は実に鬱陶しいものですが、最近少し胃が疲れているのかな、などと反省する材料になります。これは土の行で、五腑は胃、五官が口。胃の不調で口に異常が生じるわけです。

五行表

居酒屋で「最初に酢の物」は、理にかなった食べ方

このように五行表を眺め、相関を理解すると東洋医学の扉が徐々に開かれていきます。不調を示すだけが五行表の用途ではありません。土の行、五味は甘、五腑は胃。甘いものは胃の働きを助けるとされています。料理の後に甘味やデザートを食べるというのは洋の東西を問わず伝統的に行われていることですが、これも、薬膳の観点から見ると理に適っているのです。

木の行、五味は酸、五臓は肝。酸味は肝臓の働きを良くするということで、お父さんたちが新橋あたりの居酒屋で最初に酢の物を注文する光景は珍しくありませんが、これも五行の考え方に合った行動といえます。

もう一つ、台湾の知り合いに教えられたことですが、台湾は暑く、そして湿度が高い。ゆえに汗がまとわりつき不快なことこの上なし。こうした汗は体の熱を逃がすどころか、かえって被膜となって体に熱を閉じ込めてしまいます。この熱を正常に戻すには東洋医学では水の巡りが重要になります。そして、この水の巡りを司っているのが五臓の肺。そこで、五臓の肺が属する金の行を見てみると、五色が白で、五畜が鶏です。鶏出汁の白濁したスープである白湯を台湾や香港の人がよく食べるのには、五行説に基づく薬膳の知恵が生きているのです。