手術に集中できるのは、信頼できる仲間のおかげ

手術では、チームワークのよさも重要です。難しい手術のときの助手は、研修医1年生ではなく、経験を積んだ医師、それも気心の知れた相手についてもらいたいですね。

どのパートナーと組むかは、集中に影響すると思います。麻酔科医、看護師、医師は三位一体。いい手術をするためには欠かせない、大切な仲間です。

3次元CTで未破裂脳動脈瘤の診断を行う。動脈瘤の大きさが5mm以上、瘤の形がデコボコしている、動脈瘤が2つ以上あるなど、複数の要素がそろうと要手術と判断する。

手術はお昼前に行うことが多いのですが、おなかいっぱいの状況で入ることはないですね。みなさんもそうだと思いますが、おなかいっぱいだと集中力がゆるむでしょう?

反対に、おなかが空きすぎていても「何か食べなきゃ」という意識が働いて良くない。手術前には、看護師さんが持って来てくれたものを適当につまんだりしています。

「手術室に入る前に、手術は終わっている」と言う先生もいらっしゃいますが、頭の中で段取りをしておくことは大事です。動脈瘤の治療でも、教科書通りの手順があるんですよ。

とはいえ、実際は教科書通りにいかないことも。手術中に出血して、平常心を失いそうになったこともあります。私の場合は、患者さんと手術前からかなり深く関わっているので、その方の人生が私の手にかかっていることを痛感するわけです。

危険な局面に対処するには、何か起きたときのシチュエーションを事前に予測して、対処方法を準備しておくしかありません。準備さえしておけば、その手順通りに粛々と処置をすることができますから。

もちろん、私も最初から完璧に対処できたわけではありません。手術の「さじ加減」というのは、やはり経験を積まないと掴(つか)めない。クリップを置くときも、教科書では根元ぎりぎりの位置にかけるよう指示されていますが、動脈瘤の根元に近い部分に動脈硬化があった場合は、ぎりぎりにかけると親血管を狭窄(きょうさく)してしまいます。術中は見た目だけではなく、モニタリングなどいろいろ検証して安全性を確保しています。経験によって学んできたことすべてを術中に応用しているのです。

日頃の体調管理ですか? ひどい生活をしていますよ(笑)。医者はけっこうそういう人が多いんです。

でも、睡眠だけは大事にしています。夜11時頃には寝て、朝5時に目覚めます。6時には出勤して、7時前には患者さんと一緒に散歩をしたり、体操をしたり。

なぜかと言いますと、手術がうまくいっても、頭の大手術をした方というのは、心に大きな傷を抱えているからです。

そこから立ち直り、社会復帰に向けた生活をしていただきたい。

私は知識や技量を磨くことはもとより、患者さんの心がわかる温かい医療を目指しています。患者さんと過ごす時間も、手術中の意識に影響しているかもしれません。

編集=中津川詔子 構成=新田理恵 撮影=水野浩志