原発停止で飛びついた米国産シェールガス

東芝の原発事業を成長産業に返り咲かせるにはどうすればいいか。東芝の重電部隊(電力システム社)は経済産業省が推進していた「原子力立国計画」に注目した。原発の海外輸出を増やそうとしていた経産省の後押しを受け、東芝は54億ドル(当時のレートで約6210億円)という破格の値段でWHを買収した。当初、WHは期待通り、米国や中国で原発工事を次々に受注していた。

ところが2011年3月11日、東日本大震災による福島第一原発事故で、世界中の原発建設が見直されるようになった。WHが建設していた原発はコストオーバーランを起こし、東芝の財務内容が悪化。原発事業は将来性が期待できない状態に陥った。

日本ではすべての原発の稼働が停止。火力発電が急拡大し、燃料費が高騰した。そこで東芝は、原油やほかの天然ガスに比べて安い米国産の「シェールガス」に注目した。

シェールガスは、従来のガス田とは違う頁岩(シェール)層から採取される「非在来型天然ガス」だ。米国では1990年代から新しい天然ガスとして重要視されるようになり、在来型の天然ガスよりも安価に取引されるようになった。在来型の天然ガスは原油の副産物として生産されることが多く、取引価格も原油価格に連動しやすい。だが、新しいインフラで掘削されたシェールガスは、原油価格に影響を受けず、しかも安価という貴重なエネルギー源だった。

東芝は、原発だけでなく、火力発電設備も製造している。当時割安だった米国産シェールガス由来のLNGを大量調達することで、その低価格を武器に、発電システムとセットで電力会社などに販売する計画だった。

「米国産のシェールガスの調達を希望する電力事業者等の需要家に対し液化役務を提供することで、当社の発電システム事業の拡大につなげるとともに、エネルギー最適活用に貢献していくつもりだった」(東芝広報担当者)

しかしガス業界の見方は冷ややかだった。

「当時、東芝がフリーポートと契約したときに、業界内ではなぜ素人の東芝がそんな真似をするのか、といった声が上がっていた」(ガス業界関係者)

そして不安は的中する。原油価格が下落し、在来型のLNGも安くなったのに対して、東芝が調達予定だった米国産シェールガス由来のLNGは割高になったのだ。