河合塾の全統マーク模試は、勉強のできる受験生もできない受験生も受ける一般的な模擬試験である。こういう一般的な競争で上位7%に入りさえすれば、参入チケットが高い確率で手に入る仕事は、医師をおいて他に存在しない。少なくとも勉強に近い場所で生きてきた高校生受験生にとっては、この点は極めて魅力的なのではないか。繰り返しになるが、医学部に入って以降、医師になるための「選抜試験」は存在しないのである。

そして、医師になった自分を、家族や友人や教師たちは間違いなく称賛するはずだ。これは医学部に入学するだけで、ほぼ確実に実現する光景である。医師は、他の勉強や試験を要する職業に比して、必死に勉強したリターンが圧倒的に安定しているのだ。

地元志向の理系高校生にとっては最高の選択肢

第2点目は局所的な要因だが、地元指向の理系の高校生・受験生にとって、医師という仕事は、生まれ育った場所での安定的な仕事として最高のものである、ということだ。

『医学部バブル 最高倍率30倍の裏側』(河本敏浩著・光文社刊)

意外なことかもしれないが、地方の高校生受験生は、決して都市への移住を切望しているわけではない。むしろ地元に残ることを優先したい層は相当数存在する。しかし、過疎地域には絶望的に仕事がない。そういう中で、医師という職業は、勉強に邁進した高校生受験生が納得できる、数少ない職業の一つなのである。

民間理系研究の仕事は、都市型の仕事であり、その道に進むと、地元に残って生きることはほぼ断念せざるを得ない。それに対して、過疎の進む地域における魅力的な理系職業は、技官系の公務員、教師、そして医師のみと言ってよい。公務員、教員は大学を経て、さらに厳しい採用試験が控えており、本当にその仕事に就けるかどうか確証はない。となれば、進路選択の際に、優秀な層ほど医学部を選択しがちになるだろう。

また、地方で人口が減少し、経済が衰退すればするほど、地元で人生を完結させることができるだろうほぼ唯一の学部、医学部への進学欲求が高まることは必然である。

花盛りのキャリア教育も医学部志向の一因?

さらに第3点目。以下では、医師という仕事の社会的な評価について考えたい。一般的に医師は、「立派な仕事をしている」「社会に貢献している」と尊敬の目で見られることが多いのではないか。それは、医療は基本的に営利事業ではなく、社会に資する仕事であるという前提で、多くの人が医師を見るからだろう。つまり医師という仕事は、利益追求事業ではなく、社会貢献事業の側面が強いと言える。そしてこれが、高校生・受験生にとって大きな魅力になる。