「仕事の進め方の基本10則」とは

もう1つ重要なのが、生産性を高め、短時間で成果を出す働き方を実行することです。私は「世の男性は家庭や子供の教育に関心を抱き、社会に対しても責任を持つべき」と考える一方で、「出世は本人の人間性、能力、努力のバロメーター」とも考えています。育児や介護で他の人より早く家に戻らなければならなかったのは事実ですが、私の考えでは、会社の仕事で残業が必要なものはほとんどありません

そこで、きちんとタイムマネジメントして時間あたりの生産性を高め、仕事にも出世にも支障が出ないよう努力しました。

もともと私は課長になってからは仕事のやり方を工夫し、残業はほぼゼロに抑えていました。自分はもちろん、部下にもいい習慣を身につけさせることで、時間あたり生産性を高めたいと考え、新しい部署に着任するたび、自分でつくった「仕事の進め方の基本」という10カ条のマニュアルを配布しました。まだ管理職になる前、「自分が課長になったら、絶対にこれをやろう」と考え、何年もかけて練ったものです。

単に「効率的に仕事をしろ」と言われても、精神論だけではできません。そこで10の項目それぞれに具体例をつけました。具体例は部署を移るごとに書き換えました。

▼これで「残業なし」佐々木氏が定めた仕事の進め方の基本10則
1:計画主義と重点主義
2:効率主義
3:フォローアップの徹底
4:結果主義
5:シンプル主義
6:整理整頓主義
7:常に上位者の視点
8:自己主張の明確化
9:自己研鑽
10:自己中心主義

※「仕事の進め方の基本10則」は佐々木常夫著『ビジネスマンが家族を守るとき』などに所収。

ここで紹介したのは項目だけですから、少し説明が必要でしょう。「1:計画主義と重点主義」というのは、拙速を戒める言葉です。仕事は、まず計画策定と重要度評価をしてから取りかかるべきで、マニュアルには「すぐ走り出してはいけない」と書きました。重要な仕事では、何も考えずにまず走り出すと、逆に時間を浪費します。

一方で、「2:効率主義」としたのは、重要度の低い仕事についてです。こちらには「通常の仕事は拙速を尊ぶ」と書きました。この10カ条は今も現役で、先日もある省庁の幹部研修会で披露したら、「なるほど」という声があちこちから上がりました。

日本は先進国の中でホワイトカラーの生産性が最低の国の1つです。1人あたりのGDPも世界で27番目にすぎません。製造現場では生産性を上げるための工夫が日々こらされ、マニュアル化も進んでいます。ところが同じ企業でもホワイトカラーにはマニュアルはなく、新人が入ってきても、先輩が「おれのやり方を見て覚えろ」と言うだけ。これでは若い人は育ちません。みんなでもっと議論して、それぞれの会社の実態に即した仕事マニュアルをつくり、生産性を高める意識を共有すべきなのです。それは誰よりも経営者が考えるべきことです。