非正規雇用はどんどん拡大し、格差が固定化

90年代にはもうひとつ問題が起こります。日本型経営ではうまくいかないとわかった時点で、政府は会社や労働者に関する法律や制度を時代に合ったものにつくりかえるべきだったのに、それを怠った。

そのため、多くの大企業が、解雇規制の埒外にある非正規雇用者や中小企業の社員を、メンバーシップ型正社員のバッファ(緩衝装置)として利用するようになったのです。彼らに低賃金長時間労働を引き受けさせて、自社の正社員には、これまで同様の割高な賃金を支払い続けたのでした。

これでは同一労働同一賃金など実現できるはずがありません。また、政府もこの歪んだ労働市場を、本気で是正しようとはしませんでした。なぜなら、大企業の労働生産性が低くても、バッファの部分で多くの雇用が発生するなら、その分失業者が減るからです。政府は経済成長や同一労働同一賃金の実現よりも、見た目のワークシェアリングで、社会の安定を優先したのだといっていいでしょう。

その結果、非正規雇用はどんどん拡大し、格差が固定化していった。これが失われた20年の実態なのです。この間、とくにサービス産業の分野で、長時間低賃金労働で人件費率を圧縮して安売りをするというブラック企業が登場したのも必然だといえます。

ホワイト企業戦略のほうが圧倒的に有利

しかし2012年を境に、風向きが変わりました。団塊の世代が定年を迎え、労働市場から退出しはじめたのです。彼らが生産現場からいなくなったことで、労働力余りという前提が成り立たなくなった。そこでまずブラック企業が軒並み赤字になりました。

当社のグループにはバス会社もありますが、いまでは高賃金で労務管理もしっかりしていないと黒字経営はできません。そうじゃないと運転手が採用できないからです。かつて安い給料で法律も守らずに運転手を酷使して売り上げを上げていた同業者には、人が集まらず撤退を余儀なくされたところも多々あります。

いまや労働力というのは「希少資源」にほかなりません。そして、その希少資源を獲得するには、ブラックではなくホワイト企業戦略のほうが圧倒的に有利なのです。